「アリスはなんでこんな本ばかり読みたがるんだ?」
『う?』


自分の膝の上でじっと開かれた本を凝視するアリスに尋ねるペンギン。
いい歳した大人でも若干目を背けたくなるようなエグい描写ですら描かれている本。そんな本に興味を持ってしまった幼き少女に興味が湧いてしまった。
というかまず、この本を読んでその内容をアリスは理解をしているのだろうか。
文字通り小さな頭、その中にこんな小難しい単語が並ぶ幾多の本の内容が収まっているとも正直思えない。

本からペンギンへと視線を移し、真ん丸な青い瞳に自分が映り込む。


『…みんながすきだから?』
「……なぜ疑問形なんだ」
『だって、きゃぷてんはみんなのけがをすぐになおしちゃうんだもん』
「?」

『わたしもいつかきゃぷてんみたいな"おいしゃさん"になるの』


―そしたら、みんなたすけられるでしょ?

純粋にそれを夢見る幼い少女の姿はまっすぐだった。
何にも染まらないからこそ自分だけの色を持っている、そんな雰囲気を感じさせる。


「…これは閉鎖した書庫も開けないとな」
『?ほんよめるのー?』
「俺から言っておいてやろう」
『わーい!』


もしも今度月夜が訪れたのなら
大きくなった彼女に改めて将来の夢でも聞いてみようかとペンギンは密かに画策するのだった。