「親父!」


ばん、と開け放った扉の先には美しいナースを隣にどかりと佇む大きな体。
この2000人をも有する海賊団の父の存在はいつになっても計り知れず、エースとエルが入って来ても全く動じることのないその体はまるで石のようだ。

エースに手を引かれ続くエルの表情はどこか心配さを含んでいるが、エースはそんなエルに大丈夫だと何度も言葉をくれた。


「どうした、我が息子に娘よ」
『ぱ、パパ!あの……』

「親父!今日は大事な話があってきた!!」


どうしたときかれ言葉を濁すエルに、繋いでいた手を一度離してエースは床に足を折りたたむ。
そしてトレードマークのテンガロンハットを傍らに置いて、床にこすり付ける様に頭を下げた。



「娘さんを、俺にください!!」



精一杯の誠意を見せるために下げる男の頭はなぜこれほどに重みがあるのだろうか。

―部屋に流れる沈黙。
エルは黙って事の流れに身を任せることにした。

この船の中での一番の末っ子たちが、と。
血は繋がっていない家族。
しかしエースとエルは家族である以前に男と女でもあるのだから。


「グララララ!まさかこの船で本当の家族ができるなんてなぁ!!」

「お…親父?」
『ぱ、パパ?』

「エース!お前ェ…ちゃんとエルを幸せにできんだろうな?」
「するさ!してみせる!」
「俺の唯一の一人娘…幸せにしねぇと拳骨なんかじゃ済まさねぇぞ?」
「おぉ!!」

『じゃあ…』

「結婚でも何でもすりゃあいい!」



「「「「「「うぉおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」

「『!?』」


白ひげの言葉と共に聞こえてきた雄叫びとなだれ込んできた大勢の"家族たち"に2人は驚いて目を見開く。
聞き耳を立てていた野郎どもの事なんざお見通しだと白ひげはもう一度高らかに笑い、全力でエースはその野郎どもにシバかれ倒すのだった。


「お前らまた盗み聞きかよ!!」
「うっせー!」
「俺らの可愛い妹分の大事な瞬間なんだぜ!!」
「聞くに決まってんだろーが!」
「俺はどうした俺はー!」

「…ふふ、エース隊長人気者ね」
『だ、大丈夫でしょうか』
「大丈夫よ。みーんな愛情の裏返しだから」
『……そうですね』


痛い洗礼を受けるエースの表情はやっぱり楽しそうで。
エルは白ひげ専属のナースと話をしながらずっとその笑顔を見つめていた。

この日がまたこれから先に続く幸せの1ページになる。


「エル」
『パパ?』

「アイツに幸せにしてもらえよ」

『…うん!』