アリスの長い髪を結ぶには沢山のバリエーションがある。
しかし、彼女の長い髪をくくるリボンは1つしかない。
この事実が何を指すのか、つまりはツインテールなどの2つ以上髪を括る髪型ができないのである。


『きゃすどうしたの?』
「あー…ツインテールにしてやろうと思ったんだけどアリス、リボンもう1つ持ってたりしないよな?」
『うん。いっこしかない』


キャスケットの左手には綺麗にまとめたアリスの長い髪。
しかしこれを括るものがなければこの手は離せないわけで。
こうなるなら先にペンギンやら誰かにゴムの1つでも借りればよかったと思うのは後の祭りで。

目の前で小さな頭が揺れる。
このまま手を離して誰かから括るものを貰ってくればいいのだが、それでは満足のいく程に綺麗に括れた右サイドまで括りなおさなければならないだろう。


「何かなかったかなー………あ」
『?』


悪あがきで空いた右手をツナギのポケットに突っ込んでみれば何か糸のような感触。
自分のポケットに入れていたものの存在を忘れていたキャスケットはそれをポケットから引きずり出して掌広げてみた。


「…アリス、ちょっと我慢な」
『ん!』


少し細めの、リボンと言うには少し物足りない紐。
これが何の紐だったのか、キャスケットの頭に過ったのは数日前自分の手から彼女の大好きなリンゴ味の飴を攫って行ったアリスの姿。

そのリンゴ味の飴が入っていた小さな小袋を括っていたのがこの紐である。
飴だけを取り出せればいいと紐をツナギに突っ込んだ記憶は新しい。
だがすっかり忘れていた存在を発見した今、使わない手はない。

次の島に着いた時にでももう1つリボンを買ってやろうかと思う。
(どうせペンギンも船長もアリスの事なら甘いから言えば買ってくれるだろう)


「ほらできたぞ!ちょっと左右で釣り合ってないけど勘弁な」
『もうかたっぽ何でくくったの?』
「ん?俺の持ってたモンだけど」


こんなん、と手鏡を渡してやればアリスは自分の頭、左サイドへ興味を示し面白そうに鏡に映る自分と向かい合っている。

―あぁ可愛い
ツインテールに括ったの自分だけどなんでこんなにアリスは可愛いのか


「(あ"ー!!俺器用でよかったーー!!!)」

満足げにありがとーと抱きついてくる小さな体温を受け止めてキャスケットは1人悶絶した。
次に島に着いた時、彼女を飾る装飾品がいくつ増えるだろうか。