私はこの世界に産み落とされた者ではない。
ある意味この世界では異端者と言える存在に、誰が祝福などすると言うのだろうか。
私が生まれた日は、"この世"に産まれた日ではないから。
故に、この私の生誕を祝うと言う行為に意味など存在しないと言える。

だから私は誰にもそのことを言わなかったし、聞かれなかったら言うつもりもなかった。

あえて理由をつけるなら、それはただの偶然。



「なぁ、エルの誕生日っていつなんだ?」



丁度その日、貴方が私にそれを聞いたのは。


『今日です』
「へー今日なのか!そうか今日か……って」

「「「「えええええええ??!??!」」」」


あまりの声量に思わず目を塞いで耳も塞いでしまった。
というか皆さん物凄い聞き耳能力ですねと言わんばかりに盗み聞いてたのかと言うのが正直な感想。

何より私に質問を投げかけた目の前のエースさんはスプーンを持っていた手を机に叩き付けて私を射抜いていたのがどうにも印象に残って。(だって口周りすっごいピラフ付いてるから)
なんで言わなかったんだよ!となぜか私の誕生日を辺りに告げ回る人まで現れる始末だ。


『なんで…と言われましても』
「もっと先言っとけば色々用意できたのによ…」
「ホントだぜ…とりあえず夜は宴会だな…誰かオヤジに言ってこいよ」
『別にいいですよ?』

「…案外無頓着なんだな。女ってもっとそういう事に敏感なんじゃねぇの?」
『そうなんですか?今まで一度も祝われたことありませんからわからないです』


まだあまり手の付けてなかった美味しそうなピラフにやっと私は手と付ける。
今日は海鮮エビピラフらしい。美味しい。
エースさんがさっき若干吹き出しちゃった分が勿体ない。

私の発言に少し低くなった室内の温度に少々の申し訳なさを感じたけど本音だから。

産まれてきて一度もそういったことをしたことが無かった。
でも、なんとなく誰かには祝ってあげたい気持ちはある。
こんなにも私の事を暖かく受け止めてくれた人達には感謝と言う心からのお祝いを。


『自分の事は2の次でいいんです』


私が誰かを祝うのは自分の為。
自分の事はそういう対象にしてほしいと思ったことが無い。
だから言う気もなかった。

そして私自身がこの世界で誕生日を祝うことに感謝することに疑問を感じているから。


「ばーか。んなわけあるか!」
『え、きゃ、』

「大事な末っ子の妹の誕生日、祝いたくない奴がいねーと思ってんのかよい」
『マルコさんまで…』


エースさんにオレンジのトレードマークで視界を遮られ、慌てて顔を上げたらいつの間に来ていたのやら、マルコさんと目が合う。


「今までむさっ苦しい男共の祝いしかしたことなかったんだ。たまには華やかな祝い事もさせろよ」
『と、いいましても…』

「そうだな、まぁ今日ってのは難しいが…」


私の頭をテンガロンハットごとわしゃりと強く撫でて、その唾に隠れる様に。
ちゅ、と小さな音を立てて私の額から離れて行った。



「来年は、絶対に今までにないぐらいの誕生日にしてやる!」



周りが大きな声を上げて夜に向けて準備をしていく。
私の為に、私の事を祝ってくれる人がいて。

自分が2の次でいいだなんて思ってたけど、やっぱり嬉しいと思っちゃって。

なにより目の前で満面の笑みを浮かべるエースさんの笑顔が眩しくて、心がくすぐったい。
どうにも恥ずかしくなった私は被せられたテンガロンハットの唾を両手でギュッと握って顔を隠す。

そしてぽつりとつぶやいた。
私の為に、私が生まれたことを祝福してくれる人がいることに。

ただ一言

ありがとう、と。