「あいつが死んだのはお前のせいだ!」


罵詈雑言が降り注ぐのは日常茶飯事。
私に投げかけられる言葉の刃が飛んでこない日なんてなかった。

残念なことに生まれつき幸せなことに恵まれなかった私。
それに反対で不幸に縁のなかったお兄ちゃん。

釣り合いの取れた兄妹であった私たちの天秤が傾いてしまったのは神様の悪戯と言うよりは意地悪であったように思う。
天秤が私のほうに傾いたのは、この涙の重みのせいなのかな。
なら、もう泣かないから、お兄ちゃんを返してよ。
天秤に上乗せした分の涙を枯れさせるから、もとの釣り合ったあのころの天秤に戻りたい。

ぎゅっと結んだ唇に赤が滲む。
でもこんな分では足りないくらいに流れた赤を、私は見てしまった。
きっとお兄ちゃんが涙の代わりに流した血が、また私の天秤皿の上に乗せられているんだろう。


『やっぱり泣きたいよ』


蹲って、立てた自分の膝に顔を埋める。
もう私の天秤は元に戻らない。
一度傾いたそれはきっともう壊れてしまったから。

いっそもう、思いっきり泣いてもいいのかな。
でも、その涙を受け止めてくれる器を私に与えてください。
もう私のお皿はいっぱいなの。



「魔女のいるってェ噂の家はここか?」



開かれた扉の先にいた彼に

幼き頃の私とお兄ちゃん、そして
懐かしい幼馴染の面影を見た時

私の涙の天秤が壊れた気がした。