『ねぇべぽー。なんでみんなはしりまわってるの?』

「何かこの航路だと嵐に直撃するかもなんだって。ペンギンが言ってた」
『べぽはいいの?』
「俺はアリス見てろって言われたから待機なんだ」
『…じゃあべぽいっしょにおひるねしよー?』
「いいよー」




「…こいつら…」
「……人がひと仕事してきたらこの様子とは……」


嵐一直線の航路を抜けてどたばたと走り回っていたキャスケットとペンギンが甲板に戻ってきたのは既に行動を初めて数刻が過ぎた頃だった。
アリスの見張りを頼んでいたベポを探しに行ってみれば甲板からは寝息が3つ。

2つまではわかる。

ベポにアリスを頼んだペンギンはこうなることも予測はしていたからだ。
しかしもう1つここに寝息が加わることになるとは思ってもみなかった。


「なんで船長まで寝てるんだ…」


横になったベポのお腹の上にアリスが。
そしてベポの腹を枕にしてもたれ掛る我らが船長ローの姿。
確実に安眠を妨害したら殺されるであろう。
それを跨いだ先に眠っているアリスの姿は見たくて堪らないのが性と言うもの。
しかしペンギンの持っているカメラが目的物を捉えようとするとどうしても起こしてはいけない人物が入ってしまう。


「くっ…」
「いいかペンギン…ぜってー起こすなよ」
「わかっている」

「…にしても………寝顔可愛いよな」
「…否定はしない」
「てことでぜってーそれに収めろ」


これは今までありとあらゆる現場をカメラに収めてきた彼の使命に近い。
震えそうになる手でカメラを構え被写体を視界に入れる。

なんとかこの使命を果たして見せる…!

だがしかし、ペンギンの右手の人差し指がシャッターを切った瞬間にすぱーんと綺麗な音を立ててそのカメラは2つに分離することとなった。


「うるせぇ騒ぐなアリスが起きる」


―あんな気配だけで起きるあんたと一緒にするなんて理不尽だ…!

思いながらも彼女を起こさないために黙って頷いた2人は半ばやけくその様に今度ベポの腹を枕にすることを決めた。





ハートの眠り姫

(ん…、おはよーきゃぷてん)
(あぁ)
(…あれ?きゃすとぺんぎんもねてる)