愛情、相性、合いそう | ナノ


  ぼくがきみを傷つける

「う……痛い……」

 ズキ、なんてものではない。形容しがたい痛みが私の頭を貫いて、半ば強制的に意識を浮上させられた。

「!?こ、ここどこ……?」

 いや、たぶんここは路地裏かなにかだろう。両方にコンクリートの壁があるのとゴミ箱などが散乱しているのを見ると間違いはなさそう。幸いにも、今は誰もいなくて逃げようかと思ったけれど手足が縛られて動かない。先程からポケットでヴーヴーうるさい携帯はとられてはいないようで、助かったと思う。うん、助かってはないけど。

「んん……こ、こう……?」

おそ松:なあ、ごめんて。どこにいる?
おそ松:おーい
おそ松:そんな怒んなくてもよくない!?
おそ松:おーい……
おそ松:……今どこにいんの?

 おそ松くんからいっぱいLINEがきていた。送られてきた時刻から見ると1時間くらいは気絶していたみたい。

「ギャハハ」
「マジかよー!」
「ひっでー」

 下品な騒ぎ声と、たくさんの足音が遠くから聞こえる。たぶん、すぐそこに近づいてきているんだろう。携帯を使える機会は今しかない。

『今路地裏でしばられてうごけないのたすけて』

 これで伝わるだろうか。でも、たぶん私からの返信がない時点で鋭いおそ松くんは気づいていたはず。

「あっれ〜?起きてたの?」
「頭、大丈夫だった〜?ヒャハハ」
「血ィ出てるけどね〜」

 なんとも柄の悪そうな男たちだ。てっきり私を付け狙っていたストーカーかと思ったのにあまりにも縁がなさそう。

「なんで?って顔してンね」
「ま、そりゃそうか。ごめんね?俺らきみに恨みはないンだけど、さ」
「きみをつけてたストーカーいたでしょ?あいつが俺らに頼んできたンだよね。「彼氏がいるあの子なんていらない。殺してほしい」ってね」
「でも俺ら関係ない子殺すほど馬鹿じゃないし断ろうとしたンだけど」
「きみ、松野おそ松と付き合ってるンだって?」

 だったら殺さないわけにはいかなくなっちゃって。と薄気味の悪い笑顔を浮かべる。なるほど、合点がいった。元々の依頼はあのストーカーだけどこの人たちの狙いはおそ松くんなんだ。

「きみ、おそ松くんに助けを求めるでしょ?」
「残念だったね。きみもおそ松くんもここでお終い」
「バイバ〜イ、アハハハハッ!!!」

 ああ、ついさきほど助けを求めたこと、既にバレてるんだ。ごめんね、おそ松くん。きちゃ、だめ……。

「いたぶる趣味はないって言いたいンだけど〜」
「きみかわいいから、声は聞きたいかも」
「ってことで、ごめんね」

「ぐっ……けほっ……げぉ……」

 強烈な蹴りが入る。途端にお腹に突き刺さるような痛み、口から漏れる赤。

「っ!!」
「おーおー。強気な瞳、ソソるねえ」

 前髪をガッと掴まれて持ち上げられる。口も切ったようで口内は既に鉄の味でいっぱいだった。……ああ、痛い。

「うぐっ、いたい……」

 どんっと投げ捨てられ、コンクリートに頭を打ち付ける。ぐわんぐわんと頭が回ってただひたすらに痛みを感じる。

「たす、けて……」
「あっれ〜?おそ松くんに助けを求めるの?俺らの狙いはおそ松なのに?ヒッドイ女だねえ〜」
「もう一発殴っとこーか」

 薄らと開いた瞳から見えるのは、私めがけてバットを振り上げている男の姿。ああ、もうこれ死んじゃうな。なんて呑気に考えてきつく目を瞑った。

「…………?」
「なあ、何してんの?」
「お、お前……」
「答えろよ。何してんだって聞いてんだよ!!!!!」

 消えかけていた意識が、急激に持ち上げられる。おそ松くんの声がする。どうして、なんで。
 おそ松くんは片手でバットを掴み、足で男の背中を思いっきり蹴る。ぐふっなんて音がして倒れた男のバットを奪い取って、私に蹴りを入れた男に掴みかかる。

「なんで答えねえんだよ」
「……お前馬鹿なの?」
「あ?」
「この人数相手にお前一人で立ち向かってくるとか馬鹿だろ?」
「呼ぶ相手もいませんでした〜ってか」
「ギャハハッ」
「で?」
「……は?」
「俺が一人だからお前らが勝てるって?」
「……たりめーだろ!」
「ふーん、おそ松兄さんめちゃめちゃ馬鹿にされてるね〜」
「兄貴一人で勝てるってよ」
「あ、俺らいらない感じ!?!?!!?」
「おい!ちょっと待てよ!何人いると思ってんだよ!」
「おそ松兄さん、僕は力に自信はないけど、彼女を抱えて逃げ切れる自信はあるよ」
「ん。そうだな、名前連れて逃げてくれ」
「了解」

 男の群衆の中にいるのはおそ松くん。塀の上に座ってプラプラさせている人が1人、その隣で楽しそうにバットを振っている人が1人、排気口の上に体育座りしている人が1人、おそ松くんの奥に背中合わせで立っている人が2人。

「(あ……、6人だ)」

「てめえ!調子乗ってンじゃねえぞ!」
「カラ松」
「おう」

 背中合わせだった人が私に向かって走り出す。もう一人は護衛のように守っている。

「……ごめんね、痛かったでしょう」
「あ、の……」
「ああ、ごめん!喋らなくていいよ」
「おいチョロ松!早く連れてけよ」
「わ、わかったよ!……し、失礼します」

 力が入らなくてさぞ重いだろう私の体を軽々と持ち上げる、チョロ松と呼ばれていた彼。「あ、ありがと……」と言えば照れくさそうに「巻き込んじゃってごめんなさい」と言った。……全然、あなたのせいじゃないのになあ。

「……出血がひどいな、病院に」
「わたし、だいじょぶ……」
「ダメだよ。万が一でもきみに傷が残ったりしたら僕がおそ松兄さんに殺されちゃう」
「……あり、が……とう……」



 目が覚めると、そこは病院だった。起き上がると上半身、それに頭にとてつもない痛みが襲われ、とっさに目を閉じる。……病院独特の薬品の匂いが鼻を刺激されて、「ああ、あの人が連れてきてくれたんだ」と実感した。

「……あれ?起きてる、ねえ!おそ松兄さん!起きてるよ!」

 見覚えのある彼、トド松くんがいち早く私の目覚めに気付いた。しかし私の元にいち早く駆け寄ってきたのはおそ松くんだった。

「名前ッ!!!!」

 名前を呼ばれたかと思えば、私は既におそ松くんの腕の中にいて。「いたいよ」と言えば慌てたように私を離した。……どうしたんだろう、そんなに焦って。

「……ごめん」

 申し訳なさそうに呟いた。なんて声をかければよいのかわからずにあたふたしているとカラッとした笑顔を見せた。

「悪ィな〜!」

 なんていって、面会時刻終了までおそ松くんは私の傍にいてくれた。幸いにも今日は金曜日で、しっかり土日を休養に当てれば月曜日から学校にいけるとのこと。

 よかった。月曜日からもおそ松くんと一緒に登校できる。

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