流行りの女性ボーカルの歌声と軽い振動音が鳴りだし、廉造がポケットから携帯を取り出すとそこには奥村燐と恋人の名前が表示されていた。
通話ボタンを押せば、一瞬の空白の後に通話が繋がる。
「廉造?」
「燐君、どないしたん?」
 一週間ぶりの恋人の声に舞い上がっていた廉造がしかし、次に燐が発した言葉にがくりと肩を落としたのもしょうがないと思う。
「わりぃ。あの、ちょっとさ、雪男の様子見てきてくんね?」
「……ええけど」
 燐と付き合いだしてから、燐が根っからの兄気質であるということに廉造は気がついた。
そんなところも大好きだと声を大にして言えるのだが、しかし、久し振りの恋人からの一声が弟に関してだなんて、正直ちょっと泣きたいと思ってしまうのもしょうがないだろう。
「まじ、わりぃーな。あいつ、本当、俺が飯作んねーと、すぐインスタントにしようとするからさ」
「んーでも俺もそんな料理、得意ってわけやないしなぁ。適当に惣菜でも買ってけばええ?」
「おーそれで全然、大丈夫だ! 本当わりぃな。廉造くらいしかこんなこと頼めねーし、すっげー助かる!」
 携帯電話越しのどこかノイズの混じった声を聞きながら、廉造は笑う。
(俺しか頼れないなんて言われたら、行くしかないわ)
 たとえ、それがまるで舅のような名目上の上司の元であってもだ。
「じゃあ、これから行ってくるわ」
 現在、廉造が住んでいるアパートは雪男と燐が住んでいるマンションまで徒歩10分くらいの距離にある。
途中にあるスーパーででも適当に惣菜を買って行こうと頭の中で計画を練り、廉造は燐と他愛のない会話をしながら、財布を持ち、部屋を出た。


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