※カップリングとしては志摩燐ですが、あまりカプ色の濃くない日常話です。


01.どうしたって勝てやしません



「なぁ、駄目か? 廉造?」
じぃっと、その大粒の青い瞳でこちらを見つめてくる恋人に廉造は思わず条件反射的に頷きそうになって、慌てて、自分自身を叱咤した。
燐の願いなら何でも叶えてやりたいと常々廉造は思っている。けれど、これだけは、はい、そうですか、と許可を出すわけにはいかない。
(だから、そんな悲しそうな瞳でこっち見んといて!)
悲鳴のような叫びを心の中であげながら、廉造はため息を漏らした。なぁ、駄目か? と再び問いかけてきた燐の尻尾がしょぼんと彼の感情を表すように、項垂れている。こうなることを心のどこかで予想はしていたけれど、そうならないことを願っていた身としては泣きたいような気分だ。
しかし、ただ一人の家族である弟のことを大事に思う燐の気持ちもわかるし、それに燐がいない時の雪男の食生活を知っている為に、なんというか、駄目と一言で切り捨てることが廉造には出来なかった。
(あれはひどかったもんなぁ)
 今考えても、あの人を一人で暮らさせるということには廉造ですら、不安になるものがある。
 その時のことを思い出して、廉造ははぁ、とため息を落とした。


 廉造がそのことを知ったのは、皆が高校を卒業し、祓魔師として活躍し始めた頃だった。しばらく出張に出るということで、燐がしきりに弟である雪男を心配していたことがあったのだ。
「燐君、どないしたの?」
「あ、廉造。俺、明日から2週間くらい出張行くんだけどさ、雪男が心配で……」
 燐のその言葉に、志摩は首を傾げたものだ。
「若先生なら大丈夫ちゃうん?」
 少なくとも、燐を一人にするよりは大丈夫なんじゃなかろうか、と首を傾げる。勿論、今頭の中に浮かんだ言葉を言えば、燐が烈火のごとく怒るだろうことが簡単に想像出来て、さすがに口には出さなかったが。
「あの人、何でも出来そうやん」
 候補生時代に悪魔薬学を教わっており、今では時折任務で組む雪男はなんていうか、廉造の目から見ても、完璧という言葉が人間の形をしているように思えた。
 勿論、彼が裏で相当な努力を重ねていることも知っているが、どうしても彼を一人にするのが心配だという燐のその悩みが理解出来ず、廉造は首を傾げた。
「任務に行かないわけにもいかないしなぁ」
「そりゃ、任務やしなぁ」
「だよなぁ」
「それに任務、出雲ちゃんと一緒なんやろ? 休むのはおろか、遅刻なんてしようものなら……」
「怒られる、よな……」
 はぁ、とため息をつきながらも、候補生時代の同期と組めることが嬉しいのだろう、どこか嬉しそうに目を細める燐の頭を軽く撫でて、廉造は笑った。
「若先生だって、子どもなわけやないんだし、大丈夫やろ。気をつけて、行ってきぃ」
「おう、廉造も任務中に虫見て、腰、抜かすなよ!」
「ちょ、さすがに俺かて、そこまでは、格好悪くないですよ、多分」
「その多分ってのが格好悪いんだよ、廉造」
 そう笑った燐の額に唇を押し付けて、そして、廉造は彼を送りだした。
 



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