「なぁなぁ、燐」
 たまたま入った店で廉造が嬉しそうに自分を手招きで呼ぶ。
 それに釣られて、近づくと様々なデザインのピアスが所狭しと置かれている。
「廉造、どうかしたのかよ」
「なぁ、これ買わへん?」
 そう笑って彼が指差したショーケースに入っていたのは、青い石とピンクの石のピアスだった。
「…え?」
 いきなりどうしたのだと問い掛けようとしたのだが、自分の返事など待たずに彼は店員を呼んで支払いを済ましてしまう。
 完全に口を挟むタイミングを見失ってしまった燐は店員と廉造のやりとりを見守るくらいしか出来ずにいた。
 きょとんとしていた燐にわかったことはただ一つ。
 廉造が買ったピアスが、それなりに値段が張るものであるということくらいだ。

「ありがとうございました〜」
 女性店員の高い営業用の声を聞きつつ、廉造はピアスが二つ入った白い紙袋を左手に燐の腕を右手で掴んで店を出た。
「おい、いきなりどうしたんだよ。廉造!」
 腕を引かれて、見慣れた道を歩いていく。
「んー、公園についたら説明するから、ちょお待ってて」
 いつもより、少しだけ低い真っ直ぐな声。
 この声を聞くと燐はいつもなんとなく彼に逆らえない。
(ずるいなぁ…)
 悔しいので一度も彼に告げたことはないけれど、胸の内でそう呟いて、燐は腕を引かれるままに歩く。
 目的地である街の端にひっそりとある公園の中へ入り、さわさわと緑の葉が揺れる音を聞きながら、ベンチに向き合って座る。
 街中にもう一つ大きな公園がある為か、休日の午後だというのに、人は殆どおらず廉造と燐を心地の良い静けさが覆っている。
「堪忍な、燐」
「別にいいけどさ」
 答えを返せば、へにゃりと彼が燐の好きなあの顔で笑う。
 そして燐の掌にぽとりと先程買ったばかりのピンクの石がついたピアスを落とした。
「え?」
「これは燐に」
 ピアスと一緒に燐の掌をそっと包むようにしながら、廉造が笑う。
「ほら、俺ら、指輪付けられないやん?」
「…そうだな」
 男同士と言うだけでも一目を憚るような関係だ。
 それがましてや、人間と悪魔の子というならば尚更秘めなければならない。
 事実を思い知らされたような気がして、燐は僅かに目を細めた。
 そんな燐の頬に、志摩が右手で触れながら口を開く。
「でも、ピアスならバレへんし。きっと気付くのは候補生時代の仲間と奥村先生くらいですよって」
「え…?」
「俺が青、燐がピンクをつけたらええなって思うて」
「れ、んぞう?」
 ヒュッと喉が空気を吸う音が耳をつく。
「指輪のかわりと言ったらおかしいかもですけど、これに俺は誓うわ」
 頬の上を熱い水が滑り落ちる。
「だから、ほら、笑って。燐」

 困ったように笑った廉造の顔を見つめて、燐は一粒だけぽろりと瞳から涙を落した。

とわ

二人が付き合いだして5年後くらいの初夏のお話
title by Shirley Heights

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