ゆっくりとアサシンの身体が倒れる。闘技場の床に投げ出されたアサシンは荒い呼吸を繰り返しているが、その顔は満ち足りた様子であった。
よろよろと立ち上がる、その様はなんとも弱々しく、八極拳の達人、二の打ち知らずと言われていた李書文らしくない有様だ。
既にアサシンの身体はセラフに分解され、所々が消えかかっていた。
ユリウスは片膝を着き、力が抜ける身体を必死に支えている。

――負けたのか……こんな、凡人の男に……

負けるはずがなかった。
確かに、サーヴァントとしてのクラスはセイバーの方が上だ。だが、サーヴァント自身のスキル、力量、そしてマスターのレベルは全て上だった。負けるはずが、なかったのだ。

アサシンはコツコツと靴音を鳴らし、ユリウスに近づく。

「礼を言おう、主よ。楽しかったぞ」

呵々といつもの様に笑うアサシン。これから消えるとは思えないくらいの清々しさだ。
あぁ、そうか。英霊は既に死んでいるのだ。現実から消えるのは、ユリウス自身、ただ一人だ。
それを自覚した途端、胸中にざわりと波立つものが走った。

「消えたくない……」

ポツリ…口を突いて出た言葉。
それを皮きりに次々と胸の奥底に溜まった泥を吐き出すように溢れ出る。

「私は……私はここで消えるわけには行かない!まだ、まだ死ねない!死にたくない―――っ!!」

データ消去を遮るように呪文を紡ぐ。一節言い切るか切らないかの辺りで身体全身を裂くような痛みが電撃の様に走り去る。
ユリウスは強烈な痛みに叫びを上げた。それでも、呪文を紡ぐ事を止めない。
その目には生への執着と狂気しか映っていなかった。

「おいっ!ユリウス、止めんか!セラフに強制消去されるのがオチじゃ」

それを見兼ねたのか、アサシンがユリウスの身体を抑えつけるように両腕を捕る。
ぱくぱくと口を開閉して声すら出ない喉を必死に動かそうとするが、漏れるのはか細い呼吸音のみ。

「ユリウス…これが勝負の結果じゃ。変えようの無い現実じゃ。勝負に負ければ死ぬのが道理、受け入れられなくとも受け入れねばならん。それが我等の歩んだ道だ」

まるで幼子に言い聞かせるような優しい声色で、ユリウスにしっかりと届くよう耳元に囁く。
視界が定まっていないユリウスにしっかりしろ、と消えかかった身体を抱き締めた。

「――…一人…は嫌、だ……」

その羽音のような微かな音を感じ取り、アサシンは頷いてユリウスを抱き締めている腕に力を込めた。

「一人にはせん。一緒だ。共に逝こうぞ、ユリウス」

その言葉を聞いて安心したのか、ふっと口元を緩めた。
セラフの消去に抗ったため、二人の身体の大部分が消えかかっている。

強い赤い光が一瞬闘技場内に溢れる。
その光が止んだとき、二人の姿は無かった。



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