「オレが普通じゃないんだって気づいたのは、小学校低学年の時だったかな……。」
「最初は無意識だったんだ。昼になっても腹減らなくてさ。お腹がすいたなと感じたときには、多分記憶を食べていたんだと思う。」
 朝や夜、他人がそばにいないときにはとてもお腹が減っていた。なのに、お昼はお腹が減らない。どうしてだろうと父に話したのがきっかけだった。
「そうか……もうトオルは覚醒してしまったか……。」
そう呟いた時の父が少し哀しそうに微笑んだ事が、子供心に強い印象を残した。
父がどうして哀しそうにしていたのか当時はわからなかったが、だんだんと成長していくうちに、理解した。
この記憶を食べなければいけない血は、男に良く遺伝する。もちろん、女に遺伝する場合もあるのだが、今まで絶えず受け継がれた血は圧倒的に男が多かった。父はやはり受け継がれてしまったこの呪われたとも言っていい血を、残念に思っていたのだろう。
「まぁ、さ。自分の運命だったらしょうがないな、とも思ってんだけどね。」
 そう笑いながら言っても、トオルは自身が人間とはまた別のものだという変えられない事実がずきりと胸に突き刺さるのを感じた。リョウスケは黙ったまま話を聞いている。
 所詮オレは化物だ。きっと嫌われてしまうだろう。
 このまま話さないで、ずっと秘密のままでもよかったはずだ。
それでも、トオルはリョウスケに自分が人間とは別のモノだという事を打ち明けた。これから先、一生、リョウスケほど心を許せる気楽な友など出来ないかもしれない。トオルはリョウスケと本当の゛親友“になりたかったのだ。この世の中上辺だけの友人関係も数多い。記憶を食べるという自分のこの特殊な体質を知っても、リョウスケは友達でいてくれるだろうか。
 トオルは黙ったままのリョウスケを不安げに見つめた。
 リョウスケは一度深くため息を吐き、口を開いた。
「あのさ、何を不安に思ってんのか知らないけど、トオルはトオルだろ。別に人と食べるものが違くったって別にトオルには変わりないんだし。変に避けたりしねぇよ。」
ニッと笑ってみせ、リョウスケは言う。
「ま、そりゃぁ驚いたけどさ!」
 ツンっと鼻の奥が痛くなる。目の奥もだんだんと熱くなり、涙が出そうになった。その顔を見られたくなくて、トオルは下を向く。
「ありがと……」
 なんとか声に出した礼の言葉は涙声にかすれていた。
 リョウスケは「ん。」と返したまま、トオルの背中を擦った。
それがとても心地よくて、「こいつが親友で良かった……」とトオルは心の底からそう思った。


モノの名前は記憶であり、記憶はその人の物語でもある。
すべての記憶がその人の人生と言う名のあらすじであり、本文であり、あとがきなのだ。
 少し臆病で優しくて、最高の俺の親友は、その物語を食べる。

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