きーんこーんかーんこー、ん。
そのチャイムが鳴った途端、一斉に廊下を走り抜ける。他のクラスからも出てくる人の群れを綺麗に三人で避けてとにかく走った。「待って下さいよ〜!」と速水が鞄のチャックを閉めながらこちらに追い付こうと必死だ。誰ひとり待とうとはしない、この身勝手さに気付いていても今は走りたい。風で泳ぐ髪が鬱陶しくて、先頭を走る倉間みたいにショートだったらきっと風を心地好く感じられるだろう。あ、でも前髪邪魔かな。呑気な思考も、隣にでお先にと言った浜野。うわあ!抜かされた!これじゃあ私が最下位じゃないのよ。そんなのプライドが潰れる!残りの体力をフルに使って、見えたゴール地点へと急いだ。倉間って器用だよね。綺麗にカーブを曲がり、人の避け方だってもう10点満点と採点したくなる程上手い。それに追い付いてきた浜野。浜野は走り方、筋肉の使い方が上手いんだと思う。抑、サッカー部っていうスピード重視で足を器用に使う部活なんかに何故、私が勝負事に巻き込まれてるって?
「一番っ!!」
「にっ!」
「うわあ、わた、し、最下位っ!」
ぜえぜえと汚い呼吸。肺が呼吸を求めて大きく揺れる三人の体。それからくたびれて、床にへたばる。本当に全力で走ったから言葉が口から出ない程、苦しかった。さっきの続きなんだけど、私がなんで倉間と浜野と競争してるっていうと、単にノリだよ、ノリ。スティックノリとかいう文房具でも、食べる海苔でもなくて、誰が一番速いか競おうぜっていうノリ。因みに、勝負は今始まった事ではないし、この走るオンリーだけでもない。例えばだ。
「これでランニングは俺が一番だな。」
「昨日のテストの合計は私が一番だったよ。だからお相子。」
「ちゅーか、それならこの前の実技のテストは、俺が一番だったから俺も相子じゃん。」
以上の様な競い合いだって今までにしてきた。ノリでだ。なんでこんな事するのか、きっかけとか覚えてないけど、ただこういった仲なの。そー、それだけって感じ?
「皆、速いですよおっ!」
遅れてきた速水。速水はへとへとになって、私の隣で腰を下ろす。おっせーよ速水と急かす二人に何故か速水が謝っていて、どーして速水は悪くないのに自分を攻めるのって言いたくなったけど、キリが無いからやーめた。速水は遠慮がちっていうか、浜野や倉間みたいに積極的ではないから、こういうことには参加しない。普通なら男三人で女の子はお淑やかに見守る役目っていうのがあるはずなんだけれども、私があえてそのポジションにいかないのは例えそのポジションは可愛くとも見てるだけじゃつまらない。まー、それだけ。本当女らしくないし、適当、それが私。ひとまず、休憩しきった皆。倉間が腰をあげ、立ち上がった。
「やっべ、南沢さんがシュート練習するぞって朝練で言ってたっけ。」
「え?南沢さんそんなこと言ってたっけ?」
「ちげーよ。俺だけだよ。」
「あ、その慌てた顔は、まさか南沢先輩の機嫌を損ねたんだ!また喧嘩したの?」
その場で足踏みをするくらいならさっさといけよと倉間に言いたい。よく聞いている訳ではないけど、倉間と速水、浜野から南沢先輩という名前を聞き、廊下に擦れ違う度に挨拶する三人、に対して私。そうやって面会する回数が増えれば増える程、私も顔を覚えて貰ったので、私だって一応、南沢先輩と話した事はあるよ。その南沢先輩も倉間に対しては扱いが荒いのか、何時も朝練後、南沢先輩に振り回されてくたくたな倉間に出会う私は何度か倉間から愚痴を聞かされた。そして今もこうして慌てる倉間にお疲れ〜という浜野の呑気さに私は尊敬し、対して倉間は顕著に睨んでいた。フォワードというポジションは確かに重要な位置であって、だから南沢先輩もそれなりに本気なんだろうねと言えば速水に「南沢先輩は内申目的でサッカーしてるだけです。」と俯きながら返された。あれ、でもストライカーなんだよね?
「お前がマネージャーにいてくれたら、きっと楽しいだろうな。」
「俺もそう思います。」
「え?私?」
三人の視線が集まって、どきっとした。何故、ここで私を指名するの。
「南沢先輩を宥めるのも上手そうだしな、」
「そんな理由だけかよ。駄目、私のキャラじゃすぐになめられる。あんたらがいい例よ。」
「それもそうですね。」
「おい、否定しろよ速水。私は切ない。」
そろそろ俺らも行くかな、そう言って浜野が立ち上がると速水もつられて立ち上がった。皆部活がそんなに楽しみか、羨ましいな。やっぱ学生生活で部活をやるべきだったかな、と後悔しながら私が立ち上がる。
「部活やってる皆が羨ましいよ。」
「入ればいいじゃん。」
「そんな簡単に入れたら、迷ってない。」
「ちゅーか、俺が入部届け出しに行ってやるよ。」
何を急に言い出すと思えば、適当なこと言いやがってと笑い飛ばしたら、マジになった倉間が俺も賛成と言い出して、速水がおどおどしてたから、速水神だわっておもった矢先に、三人が入部届けだと騒ぎだして、訳がわからない私はじゃあなと言った三人を唖然と見送っていたが、ちょっと待って。後味くそ悪い!!待てよ、ちょ!お前ら待て!全力で走ると三人が一斉に逃げ出した。これぞ青春だが、いざ自分がその立場になると感覚がわからない。
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