『なんで、私は女なんだろう』
そうなまえさんは呟いた。何を言っているんだと思ってなまえさんの顔をみると、何処か悲しそうな表情をしていた。
「何かあったんですか…?」
不意に口から出た言葉。出てしまってから、それは聞いても良かったのかと後悔と焦りがでた。
『…たいしたことじゃないんだ。ただ、女じゃなくて、私が男だったら諦めもついたのかなぁって。』
どういう事なんだろうか。諦め?何に対して…?静かに笑うなまえさんに、只どうしていいのかわからなくなった。
『この前さ、私フラれたんだよね。それが、自分でも驚くくらいショックだったみたいで。私、それほどあいつのこと好きだったんだな…。』
明らかに無理をしている笑顔が苦しくて、でも、自分に何か出来ることを必死に脳内で探しても何にも出てこなくて、無力な自分が嫌になった。
『っ、なんで、だろうね。こんなに苦しいの…。本当に、私が男だったらこんな思いしなくてすんだのかな。もし好きになっても諦められたのかな。
…無理、だろうな。きっと、性別なんて関係ないんだろうね。男だったとしてもずーっと諦められなかったんだ。次はきっと男であることを恨むんだ。」
水が溢れるように、何かが零れていくように少しずつ吐き出される言葉。目からは言葉と同じように涙が溜まっては落ちていっていた。きっと、俺にも誰に対しても言ってるんじゃなくて独り言のように、ゆっくりと。
『ねぇ、神童。私どうしたらいいのかな…。諦め、られるかなぁ。
…もういっそ好きって感情が私の中から無くなっちゃえば、そしたら楽になれるのかな。もう、何も想わなくて良くなるのかなぁ…っ。』
「……っ…」
どうしようもなくなって、なまえさんを抱きしめた。感情がぐちゃぐちゃになって、なまえさんの好きの対象が俺だったら良かったとか有り得ないことを願って、運命さえも恨みたくなった。
当然、俺の行動になまえさんは驚いていた。
『……っ、しん、どう…?』
「……好きを捨てたいなんて、言わないで下さいよ…っそんな悲しいこと、言わないで、下さい…、」
自分でも何を言いたいのかわからないまま、ただただ言葉を零していった。情けない、なんで俺が泣いているんだ…。
『…はは、神童まで泣かないでよっ…、』
どうすることも出来ない感情は、涙となってボロボロと音も無く流れ落ちて消えていく。その先には何かあるのだろうか、いつか虹にでもなるのだろうか。
何を出来るわけでも無いけど、彼女の大切な人にはなれないのだろうけど、せめて頼られていたい、必要とされたい。自分が無力だなんてわかっている。
それでもどうにかして彼女が幸せになれるように、笑えるようにと…。情けなくたって、不器用だって、俺が出来ることはそれぐらいしか無いから。
(もう少しだけ貴女の傍にいさせてください。)
たとえ触れることができなくても、傍にいれるだけで良いんです。だから…
title byフォルテシモ
≫
戻る