人間は夢を見る生き物だ。それが多いか少ないなんて個人差でバラバラだけど、少なくとも私は多い方だった。
私は、繰り返し繰り返し、何度も同じ夢を見ていた。それはもう、飽きたなんて言葉ではたりないくらい何回も。もう、内容も殆ど完璧に覚えてしまったほどに。
それは、黒い髪をしてこれまた黒くて深い色をした着物みたいなものを着た男性と、その隣にいる色素の薄い髪と褐色の肌をした、よく見ると頭に角が生えている男性と、手に書類らしき物を持った女の人、恐らく私が3人で楽しそうに笑いながら話している夢。本当にその女の人が私なのかはわからないけれど、似ているということもあってか不思議と自然にそう思えて、何の確証もないのにそれは私だと思った。
「また…か…。」
朝起きて、また同じ夢を見たことに苦い気持ちを抱きつつも呟いた。
この夢を見始めたのは、確か私が小学校の頃だっただろうか。その時はよくわからないと思いながらもなんとなく恐かった。なんだか見たら悲しくなる気がした。
多分、私だけど私じゃない人が。それでも、そのうちに気にしないようにしようとして、いつしかその夢を見なくなっていった。
なのにまた見始めたということは何かあるんだろうか、って2,3年前に思ったけれど今の今まで何にもなかった。同じ夢を見る、それだけのこと。
何回もってことは何かを伝えようとしてるのかも、と考えたこともあったけどよく分からないままだった。
何回も見てるのに、話している他愛のない内容は覚えたのに、何度見ても話している2人の名前がわからない。
私は今と同じ名前をしていて、話しているときに2人の名前を呼んでいたはずなのに、その部分だけうまく聞き取れない。
やっぱりぼんやりとしているとはいえ、昔よりも徐々に鮮明な風景になってきているのに、名前やその2人に関することだけはいつまでたっても靄がかかっているようで、なんだかもどかしい気持ちになる。
そういえば、今日のはいつもとはなんだか違った。内容は勿論だけど、私の前にいる2人はどこか悲しそうな、辛そうな顔をしていて、私は「しょうがないよ」と言って2人とは反対に、苦し紛れのようだったけど笑っていた。
そうして何かを話した後、またねと言ってどこかに行って、消えていった。
「……しょうがない、よ…。」
思い出して反復するように小さな声で呟くと、なんでか分からないうちに視界がぼやけて目尻が熱くなって涙が流れた。
悲しくて、辛くて、抗いたいのに無理だということへの虚しさとか、色んな想いがこみ上げてくる。まるで私の想いじゃないような…。
なんでだか自分でもわからなくて、それなのに不思議と同じように思えて、…あぁ分かった、あの時私は苦しかったんだ。だからあの時、私は2人から離れた後で声を殺して誰にも気づかれないように泣いたんだ。
「…会いたい。」
無性にそう思った。誰に、とかそんなのはわからないけどとにかく会いたいんだ。
止まらない涙がうざったらしくて無理やり袖で拭いて、どうにもできない気持ちを抑えるように膝を抱え込んで途方に暮れたまま時間が過ぎていくのに身を任せた。
2012.07.30
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