今がどんなにつらくても、皆は、篤志は辞めることは無い。心の何処かで思っていた。そう願っていた。サッカーが、皆が好きだから。終わるなんて嫌だから。
でも、そんなの結局只の願望だったんだ。現実は理想通りにはいかない。そう言ったのは誰だっただろう…。
「そもそもこうなったのはお前のせいじゃないか、今のシステムが可笑しいなんて初めからわかってたからな。それでも我慢してきたのは、サッカーを続けたいからだオレたちから、サッカーを奪うようなマネするな!!」
グラウンドに倉間の声が響く。天馬に対して苛立っているような、でも凄くつらそうな声。
直後、予想していなかった、したくなかった言葉が聞こえた。
「円堂監督、俺、退部します。」
私はそれが耳に残って、頭から離れなくなった。
嘘でしょ…?声に出そうになったのを寸前のとこで止められたのは先に車田が質問したから。私は簡単に退部させた円堂監督に怒りすら覚えた。
嫌だ、嫌…。辞めることなんて無い。そう思ってしまっていたからこそ、信じられなくて、認めたくなくて、頭の中で理解するのを拒否しようとした。
でも、周りが黒くなって、去って行く篤志しか見えなくなって。それだけでも今の私には絶望的で、理解するには十分だった。
「…雷門サッカー部を潰そうとしてるのは剣城でもフィフスセクターでもない、本当はお前の方じゃないのか!?」
倉間の声で、我に帰った。言い過ぎだ。そう思いもしたけど、先程のもどうしても倉間に賛同してしまう。天馬には悪いが、一緒にやってきたからこそつらいんだ。
ずっと同じFWとして練習や試合をやってきて、いくらつらくても数回も無い勝敗指示の無い、自由にサッカーできる試合や練習を楽しみにして、隣でやってきた倉間や皆だからこそ思えることだった。
いくら不条理な指示でも、サッカーを続けたかったから、
好きだったから…。
『……っ!!』
自分でも知らぬ間に走りだしていた。勿論、篤志の行った方に。今なら追いつける。そう思った。皆、驚いた顔をしたり私の名前を呼んだりしていたけど別に気にもならなかった。
『篤、志…!!』
全速力で走ってきたせいもあって肩で息をしながら呼んだ。幸い、篤志は歩くのを止めてこっちを向いてくれた。
『なん、で…』
篤志にむかって歩きながら、まだ息が整っていない状態で聞いた。なんで辞めるの、そう聞こうとしたのにうまく話せない。
「言っただろ、もう俺はついていけない。」
『でも…っ!!』
後少しなのに…、もう少しで終わるんだから、折角今まで続けて来たんだから、今更辞めるなんて、後少し頑張れば…!!
今まで溜まってた涙が出そうになって俯いた。必死に流さないようにしたけど重力に従うように流れ落ちていった。
『…あんなに、頑張ってとった10番をそんなに簡単に捨てていいの!?』
「………用件、それだけか?」
『…っ……!?』
そう言って篤志が歩きだそうとしたから、咄嗟に止めようとして腕を掴んだら簡単に手を払われた。
こんなに悲しくてつらいなんて思わなかった。手を払われただけなのに私を拒否されたみたいに思えて、金縛りにあったみたいにその場で動けなくなって、しゃがみ込んだ。
涙は止まるどころかどんどん溢れてきて、足やスカートや地面を濡らしていった。
いくらしつこいと思われても、諦めずに追いかければ良かったの?そうしたら南沢は辞めるっていうのを取り消してくれた?
そんなことは無いって分かってる。でも、頭の中にはもしとか、こうすればとか、そんなことばかり広がっていった。
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