なんでこんなことになったんだろう。ていうか、こうなった原因は何なんだ。
抑の原因はどちらが悪いとも言えないけど、多分きっとこの状況では俺が悪いんだろうな、他者の目から見たら尚更そう言えるに違いない。
なんせ、目の前には泣いているなまえがいるんだから。
泣いてるといっても、腕で目元を強く擦り力をいれ唇を固く結び必死に涙が出ないように堪えていて、そこまでして俺に泣き顔を見られるのは屈辱なのかと聞きたくなる程に素直じゃない泣き方だった。
なまえとは家が近く親同士が仲良いのもあっていってしまえば幼なじみというより昔からの腐れ縁だった。
小さい頃はお互いに良い遊び相手だったし、それなりに仲が良かったけど自然と遊ぶことも無くなって来て何故だか(恐らく性格的に)互いに意味も無く突っ掛かる様になっていた。
最近は会うと最初は普通に話すものの必ずと言って良いほど口喧嘩に発展することが多くて収拾がつかなくなることも多く、周りが仲介に入ってやっと終わることが多々あった。
今回もそれと同じ。席が前後なこともあってただ話をしていただけだ。
なまえはきっと、吹雪先輩のことが好きなんだよな。そんなことは前々から知っていたことで、今更どうこう言うことでも無かったはずなんだ。
いつも通り、ぺらぺらとよく喋るなまえを適当に話に乗りながらかわしているだけで、別に吹雪さん吹雪さんといかにも恋をしている様な言い方で連呼しているなまえなんかどうでも良かった。
はずだった。
どうも今日の俺はどうかしていたらしくて、そんななまえの様子を見ていたら無性に苛々してきていた。だから余計な言葉を口にしてしまったんだ。
『はぁ…吹雪さんやっぱり格好良い…。あんなに軽やかに動けて素早くてサッカー上手で、優しいし格好良いし紳士的だし、本当素敵…!』
「あっそ」
この2つを元にしたような会話がひたすらループされていたなかで、例えばコップに水が溜まっていくように確実に何かが俺の中に溜まって行っていた。
基準を言ってしまえば、こいつが吹雪さんと言う度に、いっぺんに落ちて来るという感じ。
そして、何度目かわからないくらいになまえが「吹雪さん」と言った時に、溢れ零れ落ちる音がした。
「吹雪先輩にお前なんかが相手されるわけねーじゃん、夢見るのも大概にしろよな」
しまった。また要らないこと言った。なまえから来るであろう言葉を身構えていたけど、そんなもんは一向に来なかった。可笑しい、いつもなら直ぐに五月蝿い程の反撃が来るのになんだか様子が違うようだった。
不思議に思ってる俺の横でなまえはやっと言葉を発した。「……そんなことわかってるよ」ポツリと小さく呟かれ、鼻を啜る音が聞こえたと思ったら途端に椅子から立ち上がった。
唖然とする俺を余所になまえはドアの方に駆けて行った。思考が戻りそこでやっと俺は自分の発言を深く後悔したし、なんで苛々してたのかがわかった。
悔しくなる、気付いてなかったことにも不甲斐なさにも。なまえを泣かせたかも知れないことにも。
教室には人が数名しかいなかったのが幸運だけどやっぱり視線が痛い。どうせ此処に居たって誰かに言われるだけだしそんなん言われなくても俺が今しなきゃいけない事なんてわかってる。
だったら、と頭ん中で自分に言い聞かせて戸惑いなんて感じる暇もなくなまえが向かった方 に駆け出した。
大体どっちに行ったかなんてわかっていたから、見つけるのも時間の問題で姿を見つけてしまったら所詮は女子で運動部でもないなまえが俺に追い付かれないはずは無かった。
腕を掴むとこんなにも華奢だったかと思えるほど弱々しく力を入れると壊れてしまいそうに感じた。振りほどこうとするなまえを腕を引いて振り返らせると案の定泣いていて、俺の中に罪悪感が募っていくのがわかる。
どうしたものかと思わず目を背けたけど、離してと言って睨みつけてくるなまえに何か言わなきゃ、と脳が言葉を探し始めた。
「……さっきは、ごめ、ん。俺が悪かったの認めるし、その…」
自分の事ながら情けなくなる。上手く言葉が続かないし、目がやっぱり合わせられなくて視線が泳ぐ。口だけが動いて何喋ってるのかそのうちわからなくなってきた。
「…お前が吹雪先輩のことばっか言ってるから、なんか苛々してたっていうか、…多分俺、なまえのことが好きなんだと思う。」
そうだ。俺は好きになってたんだ、ずっと前から。嫉妬してたんだよな、情けない。
もうどうにでもなれという思いで一方的に話を進めた。
なまえは俺に謝られたことに驚いた様子をした後、更に驚いた様だった。「本当にごめん、」腕を離し、来た方向を逆戻りしよう体が勝手に向きを変えた。
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