ガタンゴトンと、擬音で表すならそんな感じにおおよその規則性をもって揺れる車内。どんどん景色が移り変わる窓の外は、もうすっかり暗くなっていて、星がきらきらと綺麗に光っていた。
いつもと違った風景を見ているとなんだか遠くなってしまったようでもの悲しくなってくる気がする。
ある駅に止まり扉が開くと、内側の狭苦しい篭った温度が出て行くのと外の冷たい空気が入ってくるのが同時に起こって扉の近くは可笑しな温度の空気が漂った。
特に用もない駅だから、ただ耳に入ってくるだけのアナウンスを流し聞きしながら下を向いて立っていると、誰かが車内に入ってきたのがわかった。
扉が音を立てて閉まって行くのを俯き気味に横目で見ていると、頭上から知っているような声が降ってきて、思わず顔をあげる。
そこには懐かしい奴の驚いたような顔があった。偶然って、変なところに転がってるんだね。
赤い髪をして、昔はしてなかったはずの眼鏡をつけてる、久々に会ったのかな、ヒロトには。
『久しぶりだね、ヒロト。』
本当に、と言って笑ってみせるヒロトにつられて、頬が緩むのがわかった。最近どうなの?って一応聞いてみたら、頑張ってるよ、みんなも協力してくれてるし。
ってなんだか嬉しそうに言われた。少し羨ましいかもしれないな。
「今日も仕事で出てたんだ。なまえは?」
『私は普通に私用だよ。何処まで行けるのかなって…、お試しみたいなもの。』
「お試し…?」
『うん。目的もなく、ただ電車とかにのって知らない所に行ってたの。』
色んな発見とか有って、結構楽しいんだよ。そう言うとヒロトは、いいなぁだなんて言うけれど、仕事ででも色々な場所に行けることが私としては羨ましいよ。
私が色々な場所に行く理由は一つ。ただ、考えることを放棄するため。出かけて、見て、発見して、そしたらそっちに観点を向けられるから余計なことは考えないで済む。
要は現実逃避ってやつだ。考えたくない時は良くそうする。それに、面白いことも見つけられるんだから一石二鳥だよね。
それから、少し沈黙がありもしたけど、ヒロトが話を振ってくれることもあってかつまらなくなることが無く帰路を辿っていた。
次第に人が乗り降りする量が少なくなっていき、私の下りる駅が近くなってきた。
まだ、駅に着いて欲しく無い。という想いが出てくるのはなんでなんだろう。何と無く考えを巡らせてみたら、出てきた答えにあったのが、ヒロトとまだ話ていたい。
なにこれ、まるで私がヒロトのこと好きみたいな考え方。自分自身がわからなくなるのは良くあるけど、コレはその中でも特別わからないね。
あくまで違う違うと自分の脳に言い聞かせて、考えを振り切ろうということに集中した。
「…なまえ、どうしたの?」
『えっ、』
「軽く、百面相してたよ。」
クスクスと笑いながら言うヒロトに、人の顔で笑うとか失礼だな、と思いつつ百面相なんかしてたのか、と自分でも笑いそうになる。
『そんなに笑わなくたっていいじゃんよ!』
「ごめん、ごめん」
謝りながらも堪えながら笑うヒロトは笑いのツボに入るとなかなか抜けないタイプらしい。そろそろ止めてよ、なんか恥ずかしいじゃん。全く、人が何考えてたかも知らないで…、って、知ってても困るけど。
いい加減にしろ、と思い始めた頃にやっとツボから抜けたらしく、ヒロトは笑い疲れた様に息を吐き出した。
『…あ、ねぇ今度お日さま園に遊びに行っても良い?』
「もちろん、きっと皆喜ぶよ」
『本当?嬉しいな…。久々に瞳子さん達にも会いたくなっちゃってさ』
それもこれも、久々にヒロトに会えたからそう思った。だなんて絶対に言わないけれどね。
みんなは変わらないの?とか、晴矢と風介は相変わらず喧嘩してる?とか質問をしてみたり、ヒロトからマサキっていうサッカーの上手い子が居るって話を聞いたり、又しても話が膨らんでいった。
マサキくんか…、今度会えたらサッカー一緒にやってくれるか頼んでみようかな。
面白そうだし、ヒロトが気に入ってるってことは一癖くらいありそうだけどそれを含めて楽しくなりそう。なんだか考えるだけでもわくわくしてきていた。
そして、本日何回目かわからない社内アナウンスの声を聞いたときに、ヒロトが調度「そういえば、なまえは何処で下りるの?」なんて聞いてきた。
『………ごめん、今何の駅?』
アナウンスは確かに耳に入っていて、ちゃんと聞いたはずだったのに今は何処なのかわからなくなって質問をした。
悪い予感しかしなくて、祈るような感情が出てきたけどヒロトの答えは案の定で、私は遠回しに乗り過ごしたことを告げられた感じだった。
『うん、私が下りる筈だった駅通り過ぎちゃった。』
しかも、割と前に過ぎてしまっていたようで、もうどうしようもないよね。時間はかかるけど次で乗り換えるしかない、か…。そう思ってる中、ヒロトがある提案をしてきた。
「…良かったら、今日園に来ない?そっちの方が近いだろうし、今度来る手間も省けるだろ?」
『良いの?みんなに迷惑かけるんじゃ…、』
「多分大丈夫だよ。姉さんたちには俺から言っとくから。」
『じゃ、じゃあ…、お願いしたい、かな。』
「うん。」目を細めてくすっと笑ったヒロトがなんだか格好良くて心臓が跳ねた気がした。
なぜだか、皆と会える嬉しさもそりゃ勿論すっごく有るけど、それよりもヒロトとまだ話が出来るという嬉しさが勝ってて、どういうことだか全くわからない。
こんな心がもやもやしたままじゃ駄目だ、振り払おうとお日さま園で皆と会ってどんなことを話そうか考えるようにした。
ヒロトに対してのことは、私が落ち着いたら考えることにしよう、そうじゃないとまた変な顔になってしまうからね。
2012.06.04
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