あぁ、やだなぁ。

今日もなまえは誰にでも愛想よく話かけてる。クラスでも、部活でも、男子にも、女子にも。
あんなに可愛いんだから、そんなことしてたら他の虫がついちゃうのなんて目に見えてるのに、なんでなまえは僕を変な気持ちにさせるのが上手いのかなぁ?
やだなぁ…。なまえは、僕にだけ笑いかけて、僕とだけ話せばいいのに。


なんてね。そんなこと言ってなまえに嫌われるのはやだしぃ?今のとこは、まだ良いかなぁって思えてる僕は偉くない?





「はー、なまえ可愛いなぁ…」

正直に思ったこと言っただけなのに、隼総は五月蝿いだって、本当酷いよねぇ。
あんなにマネージャー頑張ってやってるなまえが可愛くない訳ないじゃん。それとも隼総達はなまえの可愛さがわかんないって言うの?
ま、わかるって言ってもわかんなくても足元にあるボールを蹴り突けたくなるのには変わらないだろうけどねぇ。


ほんっと、なまえ可愛いなぁ。今も折角目が合ったのにすぐ逸らしちゃうし、恥ずかしがりやなのか知らないけど、そこがちょっと残念なんだよなぁ〜。







『宵一、今日先帰ってていいよ』

「?…なんでぇ?」

『今日、私当番だから鍵閉めなきゃいけないし、監督と明日のこと話合わないといけないから遅くなっちゃう。』

少しびっくりしたけどなんだ、そんなことかぁ。別にそのくらい良いのに。

「良いよ、待ってるからぁ」

『え…、悪いよ。結構時間かかるし…、今日寒いじゃん』

つまり、寒いなか待たせるのが悪い気がするってこと?別に僕のことなんか気ぃ使わなくていいのに、まぁそこも良いところだけどさぁ


『あ、呼ばれたから行かないと…、じゃ、本当に先帰って良いからね…?』


あーぁ、行っちゃった。最近暗いんだし、なまえ一人じゃ危ないんだから少しくらい甘えたって良いのにぃ。まぁ、あんなこと言われたけど待ってるに決まってるのにねぇ。








監督との相談も終わり、面倒臭いから明日の練習の準備も少ししてしまってから校舎を出ると、辺りはすっかり暗くなってしまっていて、不安感が募ってきた。
急いで家に帰ろうと思って正門に近づいていくと、ふと人影が見えた。
う…誰だろう、変な人じゃないと良いけど…。怖くなりながらも、此処を通らなければいけないと決心してさらに歩いていくと、その人影はだんだんと鮮明になっていって見知った顔が見えた。

『……宵一?』

「あ、やっと来たぁ。もー、遅いよなまえ〜」

『…待ってたの?』

それは紛れもなく宵一で、私の問いには当たり前でしょぉ?と普通に返された。
ほら、帰ろ〜?と差し出された手に恥ずかしさと戸惑いが私の中に溢れてきて止まっていると、早くって急かすように言われたので焦りつつ宵一の手を握る。
すると、予想通りに宵一の手が冷えていて本当に申し訳なくなった。



『…ありがと。』


歩きだした宵一の歩調に合わせて歩きながら、お礼を言うと、笑顔を返されて少しドキッとしたのは宵一には言わない方が良いだろう。

――――――
前サイトの1周年企画で龍果さまに捧げたものでした。


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