大学パロ



携帯を手にとって、ディスプレイを見ると、端っこの方に表示されている圏外の文字が目につく。私の部屋はいつもそうだ。滅多に電波が立たない。

最近あった嫌なことや忘れたいことを考えないようにするために携帯をいじる。
要は、紛らわそうとしてるだけ。
考えはじめるとどんどん暗くなってくだろうし、泣きたくなるから。電波が無いのはしょうがないから、久々にデータの整理やら色々してみた。




『……懐かしい、な…』

画像データの中に何枚もある、中学の頃の写真。サッカー部の仲間や、他の学校、他の国の人たちが写ってる。
皆楽しそうに笑ってて、その頃に戻りたくなって画面がぼやけた。いけない、気を紛らわせようとしてるのに、なんで泣きたくなってくるの。

…でも、今思うとあの頃が1番楽しかった。辛いこともあったけど、色んな人と知り合えたし、色んなことができた。前はそれが当たり前だったのにね

今が嫌なことばかりだったり、楽しいことが何にも無い訳じゃないけど、なんだか物足りない気がしてならない。
高校までは何人かの人と一緒だったけど、大学に入ってからは殆どの人と離れたし、連絡もしなくなったからな…。会いたい、な…。

あぁ、もう駄目。完全に泣けてきた。視界が滲んでしょうがないよ。





唯一、電波が立つ場所に移動して、電話帳から目的の人物を探しだして電話をかけた。

数回コールがあったあと、「みょうじ?」と少し驚き気味の声がした。

『久しぶり、風丸。』

「久しぶりだな、どうしたんだ?」

『…いや、得に用は無いんだけど、懐かしくなっちゃって。』

写真のこととか説明すると、納得してくれたし、共感してくれた。

「確かに、恋しくなるよな。」

『うん…、最近さ、楽しいんだけど、前よりもこう、楽しめてないっていうか、なんかよくわかんないんだけど、凄く悲しくなってきて、嫌なことばっか考えちゃって…』

頭の中で文章が纏まらず、何をいいたいのかわからなくなってきた。それでも風丸は、相槌を打って、ちゃんと聞いてくれた。それが凄く嬉しかった。

『もう、悩みはじめたら止まん無くなっちゃうし、何したらいいんだろ…っ』


「なぁ、みょうじ。今から外出れるか?」

『え…?平気だけど、』

じゃあ、って待ち合わせ場所と、直ぐに来るようにって、言われて電話が切れる。私も、急いで支度をして家を出た。





待ち合わせ場所までくると、もう風丸は来ていて凄く懐かしくなった。でも、やっぱ前とは変わったなぁ、って切なくなる。

『…どうしたの?』

「電話越しで悩み言うより会った方が良いかと思って。それに、久々だろ?此処来たの」

俺がよく、みょうじの相談相手になってた場所だよな。懐かしいように言う風丸。でも確かに、久々だった。
色んなことを話た場所、勿論他の皆とも一緒に来たけど、もしかしたら風丸と来たのが1番多かったかも知れないな。

『ありがと、ごめんね気使わせたみたいで。でも、嬉しいや中学の時に戻ったみたいで。』

それは良かった、って笑った。私は此処が結構好きだった。此処から見える景色とか星空が凄く綺麗で。愚痴いってても、忘れてきちゃうくらいに。
いつも、どんなことがあっても最後は星空を眺めて笑って家に帰れた。それも愚痴を聞いてくれた風丸のお蔭かもしれない。

「みょうじは、星が好きだったよな」

『うん!恥ずかしいことに、名前とかは全然わかんなかったけど。」

「それでも、俺よりは知ってただろ?」

『一応、調べたりはしましたからねっ。…本当はそういう方の道進みたかったなぁ』

「あれ、みょうじはそっち方面行ったのかと思ってたんだけど…違うのか?」

『うん。無理だって諦めちゃって、結構後悔してる。もう少し頑張れば良かったなって…。』

最近は自己嫌悪になることが多くなった気がしていた。自分が嫌で、他人も嫌で、私はどうしたら良いの?

「…!みょうじ!?」

『…え…?』

風丸は少し困惑し、驚いた表情をしている。……私、泣いてる?

「あれ、え?なんで、私泣いてるの?」

目を乱暴に擦って、止めようとして見るけど、一向に止まる気配無し。そんな時に、微笑みながら背中を撫でてくれる風丸の優しさに、更に涙が出てくる。私、涙腺緩くなったな…。

『ご、めん、風、丸…、』

嗚咽を繰り返しながら言うと、大丈夫だって返してくれた。

「泣きたいなら泣いとけよ。ちゃんと待ってるから。」

『う、ん、ありが、と』







『…ごめんね、なんか。迷惑かけてばっかで……』

ようやく止まって、申し訳なく思いながら言うと、優しく笑いながら言われた。

「だから、大丈夫だって。寧ろ、昔に戻ったみたいで懐かしかったし」

『え、私そんなに泣いてたっけ』

自分でも、驚いた。記憶にないんだけどなぁ…。でも、「結構な。」って風丸が言ってるから泣いてたんだろう。
涙腺、脆いなぁ…。うーん、私、やっぱり昔から風丸に迷惑かけすぎでしょ…。

『本当、なんか色々ごめんね』

「今日謝るの何回目だよ。別に、俺が勝手に世話やいてるんだから良いんだって」

風丸、どんだけ良い人なの?婿と言うより嫁向きだよ。私なんかに構ってないで良いのになぁ、彼女とかいないのかな?風丸なのに、それはないか…。うーん、でも…。

『……風丸ってさぁ、彼女とかいないの?』

「はぁ…っ!?」

やっぱりちょっと気になったから言ってみただけなんだけどな…、彼女さんいるなら私に構わせるのすっごく悪いし。

「いきなり、何言いだすんだ!」

顔真っ赤。相変わらずの純情さんなのか。

『いや、気になっただけ。…で、いるの?』

「……いないけど。」

『…へー…、好きな人とかは?』

「………、一応、いる…」

『お、本当?気になるなー。…まぁ、でもいいや。』

私はそう言って立ち上がった。自分から聞いといて悪いとは思うけど、そんなに根掘り葉掘り聞く訳にもいかないし。寧ろそっちの方が悪い気もする。

『風丸、ありがとね。ちょっとすっきりしたし、楽しかったよ。』

そろそろ帰らなきゃ。方向転換して帰ろうとすると、送ってくれるだなんて、紳士的。
風丸に想われてる人は幸せだよね。





少し話ながら、あっという間に家の前に到着。私の家の近さが少しだけ、恨めしかったりもした。

『今日は色々本当にありがとね』

私は風丸のこと、好きだよ。なんて、風丸の好きな人に悪いから言わないけど、昔から優しくて、格好良くて、少し世話焼きな風丸が好きだった。
でも、私としては単なる片想いでも良かった。変に壁が出来るの嫌だし、たとえ、ありえなくても、両想いだとしても、なんだか怖いから。
あぁ、なんて我が儘なんだろう。

「……っ、時凍…!」

『、なに?』

「…あ、えっと…おやすみ、な…っ」

『うん、おやすみ。また会おうね?』

別に、それくらいなら良いよね、と心の中で思う。私はいつからこんなに弱気になったのやら。

「ああ、…また、なんか有ったらいつでも言えよ?相談、のるからさ。」

『うん。』

私はそのまま、家の中に入って行った。少し、泣きたい気持ちにもなっていた。けれど、少しばかり必死になって、感情を押し殺し、涙を堪えた。



(好き、と伝えられたら良いのに…) (君のことが好きなのに、辛くなるのは何故なんだろう。)
((こんな気持ちは誰にも知られないままで))

title byフォルテシモ

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