「名前、危ないからこっちに来てよ」
振り返れば両手を伸ばして私を待ち構える一之瀬。欄干にもたれかかって空を見上げる私は自殺願望者に見えるだろう。靴も脱いで綺麗に揃えておいたし。
「アメリカって日本よりもガードがゆるいね。病室を抜け出すスリルが全然ないもん。あとコンクリートの肌触りが悪い!」
「名前」
「……わかったよう」
一之瀬に近寄ればギュッと抱きしめられる。それほど寒くはなかったけど、やっぱり身体は冷えていたらしい。じんわりとあたたかさが広がる。
「何してたのさ」
「ん、星を見てたの。急に見たくなって」
「名前を担当してるのはインターンの人なんだろ?大人しくしてなきゃかわいそうだよ」
「……ふーん、私よりあの美人さんが好きなんだーへぇ」
嘘。わかってるよ。一之瀬が、悪い足をひきずって私を探してくれたことも彼女がいかに私に親身になってお世話をしてくれているのかも。
一之瀬は私の頭をそっと撫でた。
「怖いなら、そばにいてあげるって言ったよね?」
だけど手術の前ではそんなこと関係ない。私の人生の分かれ道に、もうすぐ向き合わなくてはいけないのだ。逃げ出してしまったのは悪かったが怖いものは怖いのだ。もしかしたら数時間後に、私はあの星たちの仲間になっているのではないかと、考えてしまうくらいに。
「あ、のね、もしね、もしもね、手術が失敗したら」
「失敗なんてしない!絶対に!」
肩を掴まれて、真剣な表情の一之瀬が私を覗き込む。
「もしもなんて言わないでくれ!名前は手術が成功したあとのことだけ考えてればいいんだよ」
一之瀬の大きな瞳に星が映っている。なんて綺麗なんだろう。私の瞳にはぼやけた光が映っているにちがいない。
「……わかった、頑張るから、私、生きるよ。生きて次は私が一之瀬を支えてあげる。そしたらさ」
次は、この星空の下で笑いあおうよ
「うん、約束。俺も絶対に治してみせるから。だけど、最初は名前だよ」
あの星の光に負けないくらい、強く生きていこう