※豪炎寺20歳前後、GOまで行かない微妙な年代。
※救いのない話。






「久しぶり、かな。豪炎寺修也くん」

「…そうだな」

イナズマジャパンのマネージャーの一人だった名字。優れた観察眼を持つ彼女は、俺達の些細な行動で怪我を言い当て、また知られたくないだろう、と隠れて治療してくれた物だ。そんな彼女を単純に尊敬してナイチンゲールだ、と言う奴らもいたが俺には少し違うような気がした。確かに名字は優しいのだが、そこには本当に些細な違和感があったように思えたのだ。実は極悪人などと言う訳もなく、結局俺だけがそう感じていたらしい。皆はただ彼女を白衣の天使に見立てるのみ、鬼道も円堂も、誰も彼も。中学を卒業してからはろくに会う機会も無く、イナズマジャパンのメンバーで集まっても接触は無かった。正直俺は饒舌ではないし、物静かな名字とは会話が特別弾む訳も無く、今の今までは記憶の片隅に追いやっていたと言っても過言では無かったかもしれない。
だがそれはあくまでも過去形。現に俺は今目の前にいる女性を名字と認識しているし、かつての日々がよみがえってもくる。そういえば彼女は医者になると言っていたかもしれない。ただ単に周囲のナイチンゲールというイメージから漠然と想像した姿に過ぎないかもしれないが。…要するに、俺はあまり名字に興味が無かったのだ。向こうもそうだと勝手に思っていたが、果たしてそれは真実だったのだろうか。まあ、今となっては過去の事だが。

「こんなところで会うとは思わなかった」

「ええ、私も。豪炎寺くんってあまり興味無さそうだし」

「そう、見えるか」

「とても」

円堂よりも淡いブラウンだった髪は鮮やかに染められていて、上品とは言えない化粧。丈の短いスカートから覗く脚はファーの着いたロングブーツと黒いタイツに覆われている。ナイチンゲールの行く末が男に媚びる仕事だと、誰が予想しただろう。ようやく飲める年になった酒を振る舞って、笑顔を振りまいて。余程俺が顔を顰めていたのだろうか、彼女は体なんて売ってないから、と苦笑いしながら言う。冬の夜明けに薄着でいるのは寒いだろうに、いつまでも話していて風邪でもひかないだろうか。
遠回しにそういった内容を伝えると、名字はもうとっくに慣れたと返す。…果たして、かつての日々から彼女はこんな二面性を持ち合わせていたのだろうか。思い返しても浮かぶのは‘ナイチンゲール’である彼女の姿。選手達を気遣う笑顔ばかり。

「私より豪炎寺くんが早く帰ったら?待たせてる人くらいいるでしょう」

「いや…そんなのがいればこんな時間まで円堂達と飲んでないさ」

「ふふ、成人式を終えたばかりなのにお酒。相変わらず君達は仲がいいのね」

自虐的な笑顔。まだ暗い空と合わせて、彼女は亡霊の様にも見えた。

「お前も、変わらないだろう」

「…そう、ね。私も豪炎寺くん達と一緒だった」

「今も変わらないさ。俺達はバラバラになってもイナズマジャパンという過去があるから繋がってるだろ」

「そうかな?…私も、イナズマジャパンの一員だった、って言えるのかな」

「今名字何をしていても関係ない。…俺は、お前の事も仲間だと思ってる」

自分でも恥ずかしい事を言っている自覚はある。プロリーグで活躍したり、それぞれの道を歩む俺達が仲間であるように、マネージャーだった彼女もまた仲間なのだ。

「…ありがと、ね豪炎寺くん」

「…、ああ」

目を伏せながらつぶやくように言う彼女の瞼は、赤いアイシャドウがネオンに反射してきらきらしていて、まるで星のようだった。




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