方を愛していました

「くそ…道が塞がれている…。先程の爆発でやられてしまったか」

不覚を取ってしまった。と我らがアルファチームの隊長、ハンクは舌打ちをした。

ここは某国のアンブレラ研究所。ここの局長が政府の内通者だと言うことから、私たちU.S.S.アルファチームはその局長の殺害と研究所爆破の任務が与えられた。
今の今まで任務は順調に進んでいたけど、どうやら研究室の爆発で唯一の脱出経路を失ってしまったらしい。隊長のハンクが舌打ちするのも無理はない様に思えた。
ここはアンブレラ研究所の中でも特に入り組んでいるから、通信兵として任務に赴くことになった私は正直行きたくなかった。こんな場所はよく通信兵に責任がかかる。任務自体は簡単なんだけど、この状況どうしたものか。
隊長の機嫌も相当悪いし、ああもう面倒くさい。


「ほかに道はないのか?」
「…探しています」
「取り敢えず進むぞ。変にB.O.W.に襲われたら敵わん」

隊長の溜息が私の心臓を刺しているみたいで痛い。とても痛い。
これ、帰ってきたら減俸ものかな。一応緊急事態だから、必死に手持ちの機械で探しているけど。

私は隊長の背中について行きながら、他に脱出できる道を急いで探す。因みに、私と隊長以外の隊員はみんな別ルートだ。彼等からの報告によれば、彼等も脱出経路がないらしい。
研究室が爆破された此処は長くはもたないため、一刻も早く見つけなければ。研究所が崩れてチームは全滅しました、と言う馬鹿馬鹿しい結果になったらお笑いものだ。それも何とかして避けたい。死神と言われて恐れられる隊長がいるのだから尚更。

取り敢えず隊長の名誉のために、私は全力で探した。こんなに集中したのは初めてかもしれない。
目の色を変えて探していると、ある道が私の目に映った。今いるところからそう遠くはない細い道。どうやら出口と繋がっているようだ。これは脱出に使えるかも。と内心嬉しく思ったが、直ぐにそれは取り払われた。


この細い道は出口に通じる前に、B.O.W.の管理室を一回通らなければならない様になっていた。

非常にまずい。私はそう直感した。
ここの研究所はもう荒れ果てている。既に研究所内には幾つものB.O.W.を確認していて、カプセルから抜け出したものも中には含まれていた。
と言うことは、あの管理室には目覚めたB.O.W.でたくさんになっている可能性が高い。幾ら隊長がいるからと言って、大量のB.O.W.と戦うことは出来ない。死ぬだけだ。
探しているうちにもう一つ脱出に繋がる道を発見したが、先程のものより遠回りになるうえ結局管理室を通らなければならない。どちらをとっても同じ運命になる、と言うことだ。

突然汗が体中に噴き出して気持ち悪い感触に襲われた。
ああどうしようどうしよう。今更他の隊員を呼んでも遅い。どうしたらこの状況から抜け出せるんだろう。せめて、せめてB.O.W.が管理室からいなくなったら…


「―――――っ」

B.O.W.がいなくなったら…。
その時、私の視界は一瞬真っ白に変わった。


「隊長! ここから70mほど真っすぐ北に行って、西にある細い道を通ってください! そこの道は出口に繋がっています!」
「…お前はどうするつもりだ」
「私はここから直ぐにある道を通っていきますので!」
「………」
「安心してください。その道も出口に繋がっていますから!」
「…分かった。気をつけろ」

隊長は駆ける足を速めて、私が指した経路を目指す。
――これでいい。私は小さく口角を上げてほくそ笑んだ。隊長の背中が小さくなったのを確認して、直ぐ脇にある道へと入って行く。他の隊員にはもう出口への道筋は連絡しておいたし、後は自分が誰よりも管理室に着ければいいことだ。
そして、私が囮になってB.O.W.の目を引き付けることさえできれば…

恐怖なんか、感じなかった。任務遂行の為には、仲間の犠牲も必要なのだから。
それを教えてくれたのは隊長だ。隊長の教えの通りに私は動いている。
私は細くて薄暗い道を走っている時、何度も何度もそう言い聞かせた。任務遂行の為、隊長の名誉の為、仲間の命の為。通信兵一人の命でそれらを守ることが出来るのなら、私が今まで生きてきた人生は結構価値があったのかもしれない。

――隊長は、どう思うのかな。
別にどうとも思わないんだろうけども、少し気になる。だって、ずっと貴方の背中を見ていたから。
貴方と言う存在を知った時 貴方に憧れて、貴方の大きい背中を追い続けて、貴方に恋をして、貴方を護りたいと思った。これから私が自らの命を捧げる本当の理由は、もしかしたらそれかもしれない。

哀しいな。想いも告げられずに、汚らしい怪物の胃に収まっていくのは。ちょっと後悔した気分になる。
でも、それでもいいや。貴方が貴方でいられるならそれで。



いかにも重たそうな扉が、私の視界に入ってくる。目を凝らして見ると、そこには管理室の文字が。
この扉を開けば、私の人生が終わるだなんてお笑いだ。まるで救いようのない病者になった感じだ。

ゴクリ、と生唾が咽に通る。
扉の内側から聞こえてくる呻き声と重ねる様に、私は震える声を放った。


方を愛していました


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