隣に居る男が元彼じゃなくてで良かったって、絶対わかるから

「フィン!!!明日、空けといて!!!」

 明日と言えばクリスマス・イブ。その前日である今日、BSAAアルファオフィスに着くなりの○○の言葉だった。

「え!?」

 フィンは、自分と目も合わせずにそんな言葉を発する○○に、思わず、自分が言われたのではないような顔をして見つめてしまう。

「何よ」

 冷たく、言葉短く言うと、○○は目だけを動かしてフィンを見つめる。

「“何よ”ってだって―」

「いいじゃない!!あんた彼女なんか居ないでしょ!!」

 フィンが言いかけた言葉を遮り、怒ったように○○は彼を睨みつけた。

「それはそうだけど―」

「それじゃ、いいじゃない!!んじゃ、決まり!!仕事が終わった後、BSAAの正門の前で待ち合わせね!!」

 ○○はそう言うと、立ち上がる。

「あ、残業なしね!定時だからね!!」

 念を押すように言うと、○○はそのままアルファオフィスを出て行く。フィンはそんな○○の後ろ姿を不安げに見つめていた。

 オフィスを出て少しした頃、ツカツカと廊下を歩く両足には力が入り、○○のイライラは最高潮に達していた。

「あ〜っ!!もうっ!!イライラするっ!!」

 ○○は角に置かれている自販機に乱暴に小銭を入れると、コーヒーの下に点いたボタンランプを力任せに叩いた。軽快な音と共に、コーヒーが取り出し口へと転がる。そのコーヒーを、○○は舌打ちと共に奪うよう取り出した。

 ○○がこんなにもイライラしている理由とは、つい昨日、彼氏と別れたことだった。いや、正しくは「ふられた」と言った方がよいのか。電話でただ一言『さようなら』、それだけだった。それ以外の言葉や理由などは一切聞いていない。訊こうにも、その言葉を聞いた直後に電話は切れてしまい、それ以降、かけ直しても繋がらないのだ。

 つい先日まで仲良く笑い合っていたのに。明日のクリスマス・イブだって、一緒にイルミネーションを見に行く予定だったのに。突然に、理由もなく別れは告げられた。彼氏に渡すプレゼントだって用意していた。オシャレして行こうと服も靴も買った。

 一体なぜ・・・○○はそればかり考えていた。

 しかし、今は悲しみよりもイライラの方が先にきてしまっている。

 ○○は缶コーヒーを握ったまま、自販機のすぐ脇に置かれている、ビンとカンの分別されたごみ箱を蹴っ飛ばす。

 ○○がイライラしている時、その愚痴をたっぷりと聞いてもらう相手はいつもフィンだった。

 大きな音をたて、自販機の周りにビンとカンが散らばっていく。その散らばった物さえも蹴っ飛ばすと、○○は溜まった息を吐き出しながらアルファオフィスへと向かった。


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