狂おしい程に愛してる 〜お前への片道切符〜
「○○」
スペクターは自分の隣に座る愛しい女を抱き締めた。
血生臭く殺伐とした日々の中、スペクターをただ一人に男にするのは○○だった。任務明けの休暇などに、こうして自分の部屋に彼女を招き、取るに足らない話をする。こうした時間がスペクターにとっての癒しで、心安らぐ時間だった。
互いに通信兵として戦地に赴く二人。いつも行動を共にしているので、わざわざ部屋に招き、そういった時間などとらなくてもいいと思うかもしれない。しかし、スペクターはそうではなかった。
機械ばかりに熱を注ぎ、恐喝と巧弁を収める自分を○○は好きだと言ってくれた。そんな言葉を貰うのは今までにないことで、そういった特定の恋人について普段考えようともしなかった中、不覚にも嬉しいと感じた。それと同時に、「好き」という本来の意味に不安を感じた。
U.S.S.の過酷な任務に赴き、平気で銃を向ける。そんな残酷な人間が人を好きになってもいいものかと。愛してもいいものかと。
○○は言った。U.S.S.の兵士であり、銃を向けるのは自分も同じことだと。それでもやはり、スペクターが好きだと。
不安が渦巻く中、○○からの言葉は「愛してる」に変わり、気が付けば、そんな彼女にスペクターはどっぷりと溺れていた。
殺伐とした日々は終わらない。しかし、返り血を洗い流し、U.S.S.ということも兵士ということも何もかも脱ぎ捨て、ただ一人の男となる時間がスペクターは欲しかった。
取るに足らない話をするような「普通の時間」が欲しかった。任務で一緒に過ごすのではなく、互いにただ一人の男と女になって愛し合う、そんな時間が欲しかった。
○○のことを大切にしたい。愛してると言ってくれた彼女を、自分は心から愛したい。
ただ一人の男として、愛しい女を見つめていたい。
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