HAND

「あ〜、ざむい〜!!」

 寒い寒い冬の日、○○はベンチに座り、手を擦り合わせていた。今日はハンクと出掛ける約束をして、その待ち合わせ場所がこのベンチの前なのだ。しかし、困ったことに手袋を忘れてしまった。自分の部屋のすぐ目につくところに手袋を置いておいたのに、鏡の前でマフラーを巻いた時に「そういや、ガスの元栓閉めたっけ?」なんて思って確かめているうちに見事に手袋を忘れたのだ。普通なら、家を出た時点で手袋を忘れたことに気付くだろう。しかし○○は気付かなかった。大好きなハンクと出掛けられるのが嬉しくてルンルン気分だったからだ。

「だぁ〜!寒い寒い寒いー!!!」

 ベンチの上の○○。タートルネックのセーター、スカートに厚手オシャレタイツ、ブーツ、マフラーと完璧防備なのに手だけが寒い。手が痛い!そして、手袋を忘れたことに待ち合わせ場所に着くまで気が付かない自分が痛い!

「何やってる」

 ベンチで一人、○○が騒いでいると、目の前には待ち侘びた大好きな人、ハンクが立っていた。

「ぅおゎっ!いつ来たの!?」

 手を温めることに夢中だった○○は、急に現れたハンクに驚きの目を向ける。

「さっきだ。お前が一人で『ざむい〜』とか騒いでた時ぐらいだな」

「えっ!そんな時から居たの!?居たなら居たって言ってよ〜!」

「言ったぞ。しかしお前が『ハンクまだかな〜』とか、大股開いて手を振りながら何かしてるから、見てた」

 ハンクの『大股開いて』の言葉に、自分の恰好を確認する○○。だがしかし、時既に遅し。手を温めることに全力を注いでいた○○の脚は、年頃の乙女とは言えない恰好をしていた。

「わぁっ!!」

 ○○は急いで立ち上がった。

「ハンク!早く行こう!!」


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