「ん!?」

 ジェイクの部屋の掃除の途中で、買い物に出掛けていた○○。再び彼のマンションに戻って来たのだが、ドアノブに近づけた手をぴたりと止めた。

 部屋の中から何やら声が聞こえる。それも、相当大きなジェイクの声が。何を言っているのかはわからないが、誰かと電話でもしているのだろうか。そしてもう一つ、『ブォンブォン』と変な音が聞こえる。その音は大きくなったり小さくなったりしていて、不規則なリズムを作っている。

「うわっ、うるさっ!」

 ドアを開けて中へと入った○○は、ジェイクの声の大きさに思わず顔をしかめた。廊下を進み、ジェイクが掃除をしているであろう彼の部屋の前まで来ると、そのうるささは更に酷いものになった。

「ジェイク!!何やって―」

 ○○がドアを開けた瞬間、飛び込んでくるジェイクの後ろ姿。その後ろ姿に、声を掛けようと口を開いたが、あまりのうるささに、○○は最後まで言葉を発することなく両耳を塞いだ。

 しかし、ジェイクが何をしているかは十分にわかる。

 ・・・ジェイクが・・・歌っている!?

―アィ ウォンチュウゥゥゥゥ〜ッヤッ!

―ゥオゥ〜ウゥゥ!オウ!シュケナベイベー!!

 ジェイクは○○が買い物に出掛けたすぐ後から、掃除などほっぽらかして気分よく一人で大熱唱をしていた。しかし一人で歌うのも味気ない。そう思うジェイクが起用したのはこれ、○○が聞いた『ブォンブォン』という音の正体、掃除機である。ジェイクは掃除機の吸い込み口を右手で持って自分の口元に近づけ、ホース部分を左手で持っていた。歌手がマイクスタンドごと持って歌っているような恰好である。そして、ホース部分に付いている吸い込みを調節するツマミを、“強”から“弱”に親指で上げ下げしていた。

「ジェーイク!!」

 ○○は大声を上げたが、全くジェイクに聞こえていない。それどころか、当の本人は自分の歌に酔いしれているようである。

 ジェイクは目を瞑ったり、眉を寄せてシャウトしたり、時には体を曲げて動いたり、拳を突き上げたりしている。お供の掃除機もジェイクの声のうるささに負けない音を、“強”“弱”で奏でさせられている。

「ジェーーイクッ!!!」

 “Oh〜!Yeah!!”とテーブルに片足を掛けながら叫ぶジェイクに、○○は堪らずに傍に転がっていたクッションを投げつけた。

「あん?○○じゃねぇか。帰ったんなら言えよ」

 瀕死状態の○○にジェイクが振り向いた。 


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