I'll never forget my broken heart...
今、○○の目に映る光景はただ一つ。ベクターの手の中にある、グズグズになった、自分の作ったハート型のチョコレート。ビターチョコレートで作ったハートに、ホワイトチョコレートで彼の名と自分の名を書いた。かろうじてハートはわかるが、二人の名はわからず、この後に起こるできごとを暗示しているかのようだった。
「・・・俺たち・・・この関係はそろそろ終わりにしないか・・・」
「ち、違うの!そんなんじゃ・・・な・・・」
包みに入れる時には、綺麗なハート型をしていたチョコレート。ベクターの家に来るまでに、○○はどこにもぶつけていないし、落としもしなかった。一体いつ、こんな姿になったのか。
いつも○○が作った料理を美味いと言ってくれたベクター。たまに失敗したり形が歪んだりしても、「そんなことは気にしない!」と全部食べてくれた。そんな彼が、チョコレートの形一つでこんなことになるなど、○○は信じることができなかった。
・・・でも、ベクターがそう言いたくなるような何かを、今までにも何度もしていたのかもしれない・・・。私が気が付かなかっただけで。いや、気が付けばこんなことにはなっていないのに・・・。
静かにベクターがコタツから出る気配がする。チョコレートを持ち、ゆっくりとキッチンに向かって行く。
私は、ベクターに何をしたんだろう・・・どうして・・・こんな・・・。
今となっては遅すぎる、反省と後悔の涙が○○の目から溢れた。
ベクターはキッチンから戻って来ない。「出ていけ」ということなのだろう。きっと、チョコレートも捨てられてしまったのだろう。しかし、そうはわかっていても、○○の足は動かなかった。
もう二度と、大好きなベクターの名を呼ぶこともできない。
もう二度と、その目に見つめられることもない。
もう二度と、そのぬくもりに触れることもできない。
もう二度と、その胸に抱かれることもない。
もう二度と、笑顔を見ることもできない。
もう二度と、大好きなベクターの口から、自分の名が呼ばれることもない。
・・・私は・・・“broken heart”・・・失恋・・・しちゃったんだ・・・
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