「ベクター!!こっ、これ!・・・受け取って下さい!!!」

 ○○は彼氏である大好きなベクターにチョコレートを渡した。

 ○○とベクターはいつでも仲が良く、その関係は付き合って三年を経とうとしていた。しかし、このような行事で、改まった告白というのはいつになっても緊張するもの。○○の声はドキドキで震えていた。しかも、ここはベクターの家で、コタツ。足が温まるだけでなく、この緊張との相乗効果で体や顔中がもの凄く熱い。○○の顔は茹でダコのように真っ赤だった。

「ああ」

 ベクターがチョコレートを受け取り、その包みを解くのを、○○は静かに見守る。すると、ベクターが急に表情を強張らせた。

「・・・broken heartか・・・」

「え?」

 ○○はベクターの言葉の意味がわからなかった。首をかしげ、正面に座るベクターをただ真っ直ぐに見つめた。

 しかしこの後、○○はベクターの言葉で、嫌でもその意味を理解することになる。


I'll never forget my broken heart...


「broken heart・・・そうか・・・そうだよな・・・」

 ベクターは○○を見つめ、苦しいような悲しいような笑顔を見せる。

 “broken heart”、それは「失意」や「失恋」を意味する言葉。○○は、ベクターが何のことを言っているのだか、さっぱりわからなかった。

「・・・俺たち・・・この関係はそろそろ終わりにしないか・・・」

「え・・・?」

 ベクターが何を言いたいのか、ようやくわかった○○。しかし、なぜ急に『終わりにする』などと言うのか。○○は混乱しながらも、ベクターにその言葉を言わせる元となった、彼の手の中のチョコレートを見た。

「ち、違うの!そんなんじゃ・・・な・・・」

 言葉の途中で泣き出してしまった○○。

 ベクターの手の中にある、○○の作ったハート型のチョコレートは、かろうじてハート型だということがわかるだけで、殆どが割れてグズグズになっていた。


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