主導権は私にない
「あの、ベクターさん・・・ここはいったい・・・?」
「俺の家だ」
「え!?“俺の家”!?!?」
ベクターの言葉と、次々に運ばれて来る料理を目の前に、○○はいよいよわからなくなってきた。
「今日・・・クリスマスのディナーに誘っただろう?」
「でも、何でお風呂に着付けまで・・・?」
目の前のベクターも着物を着ていた。
「『特別』な日だ」
ベクターは優しく微笑むと、食べようぜ、と促した。
料理はとても豪華なものだった。船盛に天ぷら、すき焼き。庶民的な冷奴や焼き鳥などもある。炊きたての白米は当然、味噌汁は長ネギの小口切りに油揚げの短冊切り、そして豆腐が入っていた。高価な食材で『豪華』という訳ではない。『高価すぎて手が届かない』という食材は使わずに、馴染みのある食材で美味しい料理を作る。これこそが、『豪華』だった。
「このお豆腐・・・すっごい美味しい・・・!!」
「だろ!?この豆腐は、できたてをマスターに届けてもらったんだ!!」
「“マスター”って、ベクターさんの師匠の・・・?」
マスターとは、ベクターの師匠であるハンクのことを指す。そのハンクが、できたての豆腐をヘリコプターで届けてくれたと言うのだ。
「ああ。頼んだんだ!」
「えぇ!?頼んだ!?お豆腐のためだけに!?」
なぜベクターはここまでするのか。師匠にわざわざ豆腐を届けさせ、そして風呂に着付け・・・。
○○が疑問に想い口を開きかけると、それをベクターが遮った。
「なぁ、○○。知りたいことがあるんだ・・・」
静かだが心地の良い声だった。
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