主導権は私にない
風呂から上がった後も、老婆に主導権は握られた。髪は結い上げられ、風呂の後だというのに着物を着せられる。老婆曰く「クリスマスですから、着物の色はそれらしくせねばなりませんな」だそうだ。○○が着せられた着物は、上品な臙脂色のに深緑の帯だった。いや、確かにクリスマスカラーだが、さすが老婆、これはちょっと地味なのではないか。
「はいはい・・・」
ベクターに呼ばれたからここへ来たのに、そのベクターに会わずして疲れ果てる○○。もう何でもいいや、と言いたげな顔を老婆に向けた。少しばかりマシなことと言えば、露天風呂で美しい景色が見られたこと、肌がつるつるになったことか。
「さあさあ!○○様、こちらでございます!!」
またもや老婆とは思えない力で手を引かれる。ある一つの部屋の前まで来て、老婆がにっこりと笑った。
「どうしたんですか?」
意味がわからないまま、○○はその部屋に通される。
優しく笑ったまま、老婆は部屋の襖を静かに閉めた。
「ちょっとぉ・・・も〜なんなんだろ・・・」
どうしよう・・・と、不安げな表情を作りながら、○○はゆっくりと部屋の中央へ進んで行く。寒いと思った部屋はとても暖かく、畳の香りがほのかに漂っていた。
「わぁ・・・!!」
窓から広がる庭。そこには、先程のような石庭ではなく、立派な苔庭が広がっていた。池に流れる水のせせらぎ。架かる橋。優雅に泳ぐ鯉。鹿威しの音。
○○が庭に気を取られていると、後ろから自分を呼ぶ声がした。
「○○」
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