導権はにない

 待っていたと言った、着物を着た初老の男に案内され、純和風の豪邸を○○はゆっくりと進んで行く。美しい白い砂を敷き詰めた石庭が広がり、時には松、時には竹が静かな風を運んでいた。

「あの・・・すみません・・・いったいどこへ・・・?」

 いつまで経っても目的地らしい目的地に着かない大きな家。○○は心配になり、前を歩く男の背中に声をかけた。

「もう少しでございます。あ、見えて参りました」

 そう言い、男が手で示した。

 紺色の布に『男湯』、赤い布『女湯』と、白い文字が目を引いている。

「すみません、これってお風呂・・・」

「中には露天風呂もございます!」

「いやいや、そうじゃなくて・・・えぇえぇえぇ!?」

 自信満々で嬉しそうな微笑みを向ける男に、意味がわからないような、呆れたような目を向ける○○だったが、今度は、目の前の女湯から出てきた老婆に主導権を取られた。

「ほぉら、○○様。湯浴みですよぉ」

 女は老婆とは思えない力で○○の手をぐいぐいと引いて行く。やがて、老婆の手が○○の服へと伸びてきた。

「ちょ、ちょっとぉー!!何ですかいきなり!!」

「ほらほら、照れなさんな。お召し物をお脱ぎなされ」

「いーやいやいやいや、自分で脱ぎますから!!!」

 スカートの裾を引っ張る老婆と押さえる○○。そうこうしているうちに、スカートのホックが外れてしまった。

「―ほぉう、よい脚をされていますなぁ、○○様」

「きゃあぁあぁあぁ!!は、入りますから入りますから!!放してぇ!!」

 ○○は、老婆を風呂の外へとやり、風呂場へと急いだ。広い湯船に浸かり、いったい今日はなんなのだと眉間に皺を寄せていると、外に居る老婆の声が聞こえてきた。

「○○様ぁ〜!露天風呂にもしっかりと入るのですぞぉ〜!!」

「何なのよ、あのババア・・・」


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