主導権は私にない
「な、何・・・これ・・・!?」
手の中にある紙切れと目の前の豪邸を交互に見ながら、○○は絶句した。
親しくしているベクターに「クリスマスにここに来い」と紙切れを手渡され(○○の予定は全く聞かないで)、半ば(いや、殆ど)強制的にここへ来るはめになったのだが・・・○○の目の前にある物は彼女が想像とはあまりにもかけ離れすぎていた。
○○はお洒落な何かを想像していた。何かとはたとえば、バーだとか、レストランだとか・・・。
「ホテルのスイート・・・」
ホテルのスイートは絶対に『無い!』にしても、クリスマスのディナーに呼び出されるのだから、『お洒落な何か』を考えてしまうのは仕方のないことだった。
ちなみに、○○とベクターは恋人同士ではない。いつも仲良くしていて一緒に居る微笑ましい関係だった。端から見れば『恋人同士』かもしれないが、30歳のベクターが22歳の○○を妹分のようにかわいがっているだけのことだった。二人をどんなに恋人に近く見積もっても『友達以上恋人未満』という漢字8文字である。
もう少し二人の説明を加えると、ベクターはU.S.S.の戦士だが、○○は普通の民間人である。知り合ってからは、ベクターはよくご飯を食べに連れ出していた。
「・・・で・・・ここ、何!?!?」
ディナーなのに、約束の時間は夕方前のまだ明るい時間。
今、○○の目の前にある豪邸・・・それは・・・。
どこまでも続く白塗りの壁に黒い瓦。あちこちから見える木々。
そして。
「○○様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました」
「・・・はい!?・・・」
[ back to top ]