っとお前だけを見ていた

 中庭のベンチで、○○は一人、去年のことを思い出していた。バレンタインデーが近づくにつれ、どんなチョコレートを作ろうかと、ワクワクドキドキしていた自分。大好きだった彼のことを考えるだけでも嬉しかった自分。

―どんなチョコレート、俺にくれるの?

―えへへ。秘密!!

 店にバレンタインギフトのコーナーが並び、それを見るために、色々な店を見て回った自分。それだけで幸せだった自分。

 バレンタイン当日、彼は5、6人の会社の同僚と待ち合わせ場所に現れた。バレンタインが平日で、彼の会社の昼休みにしか渡す時間がなかったから、○○もチョコレートを渡したらすぐに戻ろうと思っていた。だから、彼が同僚と現れたのも、「これから何か用事があるんだろう」くらいにしか思わなかった。人前でチョコレートを渡すのは凄く恥ずかしいが。

―でも、それは違った。

「はい!これ!一生懸命、頑張ったの!」

 嬉しそうに○○はチョコレートを渡した。

「○○」

 彼はニッコリと笑い、手渡されたチョコレートの入った包みのラッピングを解いた。

「―え・・・?」

 次の瞬間、○○の視界の中いっぱいに、自分の作ったチョコレートが全て落ちていくのが見えた。

 驚いて彼を見ると、頭上まで持ち上げた包みを逆さまにしていた。

「いらねぇよ」

 彼はそう言うと、空になった包みから手を放した。

 ヒラヒラと、○○の横を漂い、やがて地に落ちた包み。

「退けよ」

 彼は○○の肩に自分の肩を当て突き飛ばした。

 びっくりして、その場に尻もちをついた○○。

―グシャッ!

 音のした方を見ると、彼の黒い革靴がチョコレートを踏みつけていた。彼の足は進み、包みも踏みつけた。

―おい!いいのかよ!?泣いちゃったぜ!!

―いいんだよ!あんなのに本気になるヤツがどこに居るって!?ははっ!居たらソイツ、相当のバカだろ!!!それなのにチョコレートなんか作ってさっ、バカ丸出し!!

 最後に、彼が振り向いた。

「お前のくだらない恋愛ごっこ、見てて滑稽だったぜ!楽しませてもらったよ!!」


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