熱の赤いバラ

「グッド・モーニング、お嬢さん」

 毎日毎日、朝・昼・晩とやってくるこの男。

「おはよう、ニコライ」

 そしていつも、朝来た時に一本の赤いバラを差し出してくる。このように来るようになったのはいつからだっただろうか。この声で始まりこの声で終わる日常は、既に○○の中で日課になりつつあった。

 ニコライと○○は、所属部隊は同じではない。しかし絶対に、ニコライはやって来る。よくぞまあ、毎日毎日欠かさずに、そんなキザな振る舞いができるもんだと○○は目の前で一本の赤いバラを差し出すニコライを関心の目で見つめた。

「グッド・モーニング、お嬢さん。本日は何の日か・・・。まさかこのニコライを忘れてはいないな」

「バレンタインでしょ?でも、チョコレートはあげないよ」

 本当は義理チョコを用意しているが、ここでは渡したくない。

 だって―。

「ねぇ、○○ー。ニコライさんのバラ、貰わないの?○○が貰わないんなら、私がそのバラ欲しいんだけど・・・」

 なぜか知らないが、○○の周りで人気のニコライ。隣の席の同僚はニコライを見てうっとりしている。

「ニコライさん・・・○○にじゃなくて、私にそのバラを下さい!!」

 同僚は遂に、ニコライに手を伸ばす。

「申し訳ない。このバラは私の○○への情熱の証なのだ・・・」

 ニコライは同僚にそう言うと、○○の手にバラを握らせた。

「では、お嬢さん。また後程」

 颯爽と去っていくニコライ。その後ろ姿を見ながら、同僚たちが悲鳴を上げている。

「きゃあああーっ!ニコライさん!恰好いいーっ!!」

 こんな場所で、たとえ義理チョコでも渡せないよ〜。あっ!ちょっと!

「バラ、受け取っちゃったじゃん・・・」

 ○○はいつの間にか握らされていたバラを見つめた。


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