「ただいま」

 いつもと変わらないクリスの優しい目が、キッチンに居る○○を見つけた。

「あっ、おかえりなさい!」

 ○○はガスを止めるとクリスに顔を向けた。すると、凄いスピードで○○に近寄るクリス。足の動き方がまるでゴキブリのように見える。

「うわっ!」

 突然目の前に現れたクリスの顔に、○○は思わず悲鳴を上げた。

 優しかったクリスの眼差しは、いつの間にか真剣なものに変わっている。

「○○」

 クリスは○○の肩をガシッと掴むと、口を開いた。


レンタインデー!ナナ食べたいんでい!


「―はい?」

 クリスの言いたいことがよくわからない○○。口を薄く開けたまま眉を寄せた。

「バレンタインデー!バナナ食べたいんでい!」

 つまりは、バレンタインに、いや、バレンタインでさえもバナナを食べたいということか。しかし、○○の横のガス台には、冷まし始めたチョコレートがある。

「クリス・・・私は・・・」

 ○○は自分がされたように、真剣な目をしてクリスの肩を掴んだ。

「私は・・・別にそんなにバナナ食べたくないんでい!」

「・・・いや、バナナだ」

「バナナは明日にして・・・今日はチョコを・・・ね?」

「バナナがいい!」

 駄々をこねるな!そして、なんなんだこの会話は!と○○は唖然とする。口を大きく開き、マヌケな表情でクリスを見上げた。

「あ・・・!」

 ○○の視界の端に見えた、今日買った大量のバナナと、その前に買って残りわずかとなったヒョウ柄になったバナナ。

「じゃあさ、こうしようよ」


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