「ねぇジェイク、『革命』弾いてよ!」
自分の恋人の発言を聞き、その視線を辿れば・・・そこには真っ白なグランドピアノがあった。
革命
「ジェイク!『革命』が聞きたい!」
ジェイクと、その恋人である○○はデパートに来ていた。○○がクリスマスだからアップルパイを作ってくれると言い、その材料を買いに来たのだ。○○から電話があり、「じゃあ、材料買ったら俺ん家に来てくれ」と、ジェイクは本当は家で待っていたかったのだが、「たまにはジェイクと買い物したいな」などと電話越しに寂しそうな声で言われては仕方ない。「迎えに行くから待ってろよ」と話もそこそこにバイクをとばせば、家から出て来た○○は、そこらへんのスーパーに行くのには似つかわしくない恰好をしていた。何でこんなにオシャレをしているんだと思いつつも、バイクに跨る自分の後ろに○○を乗せれば「今日はちょっと違う所に行きたいんだ」と言われ、「その信号を右!そこをまっすぐ!」と背中越しに道案内をされる。そうして着いたのがデパートだった。デパートで材料を買ったら高くつくんじゃないかと思うジェイクを余所に、○○は楽しそうにデパートに入って行く。そして、地下の食料品売り場に行くかと思いきや、真っ先に「上がり」エスカレーターで最上階に行く。最上階に何か見たいものでもあるのかと、自分の前を歩く○○の背中を見つめていれば、そのまま「下り」エスカレーターに乗る。そして、音楽関係の階を通り過ぎようとした矢先、○○が急に立ち止まり冒頭の発言に至る。
「ねぇジェイク、『革命』弾いてよ!」
アップルパイの材料を、わざわざデパートにジェイクを付き合わせて買いに来て、数々の意味不明な行動をしたのはこのためか。
「また今度な」
ジェイクは軽く○○をあしらった。
別の場所でなら弾いてやらないこともない。しかし、ここはどこだ?デパートの、しかもピアノ売り場。そして更に、人がたくさん居る上に、真っ白いグランドピアノときた。ちょろちょろっと鍵盤を押すくらいならいいだろう。それが、こんな所で『革命』を弾くバカがどこに居る?こいつはバカか?
ジェイクはグランドピアノを指差す○○を呆れた目で見つめた。
「―ほら、早くいくぞ!」
「え〜!弾いてくれないの!?」
○○の腕を引っ張って歩き出すと、彼女の口から不満の声が飛んできた。
誰が弾くか。こんな所で。
歩く速度を速めると、後ろから「ジェイクは恰好いいから大丈夫だよ!」という○○の声が聞こえた。いったい何に対して「大丈夫」なんだろうか。
俺はお前の頭が大丈夫か心配だ・・・。
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