カボチャ畑のベルトウェイ 2014
ベルトウェイは調理台の上に携帯電話を静かに置いた。なぜだかわからないが、通話はまだ切れていない。
「○○、見てくれ」
○○は泣き腫らした真っ赤な眼を擦り、ベルトウェイの示す物を見つめる。そこには、先程ベクターから聞いた通りの、ジャック・オー・ランタンの馬車に○○とベルトウェイが座っているケーキがあった。楽しそうな表情で隣り合う二人。細部までよくできたそれは砂糖で作られていた。
○○がベルトウェイの電話の会話を聴き取ろうとした時に、調理台の上に見えたオレンジ色の球体はこのケーキだったのだ。
「ここ最近は・・・ごめんな。無視してるような・・・ろくでもない返事ばっかりで。このケーキを作るために練習してて・・・でも、なかなか巧くいかなくて・・・。畑も、せっかく行こうって言ってくれたのにごめんな」
ベルトウェイは全てを誤った。
「ううん・・・私の方こそ、ごめんなさい・・・盗み聞きしちゃって・・・それで・・・」
「そうさせるような態度をとった俺が悪いんだ」
同時に謝る二人。しかし、それがおかしくて同時に笑ってしまった。そして、いつもの二人に戻る。
「ねぇ、ベルトウェイさん。どうしてそんなに一生懸命にジャック・オー・ランタンの馬車を?パンプキンケーキなら、他の形でもいいんじゃ・・・」
「いや、これじゃなきゃダメなんだ」
ベルトウェイは優しい表情を作る。
「シンデレラは12時で魔法が切れるだろ?それは嫌なんだ」
ベルトウェイは○○を見つめる。
「最終的にシンデレラは王子と結ばれるけど、○○と過ごす時間を・・・幸せな時を、途切れさせたくないんだ。魔法じゃないけど、魔法が切れるなんて嫌なんだ。このケーキのカボチャはシンデレラのカボチャとは違う。ハロウィンのこんな風に笑った顔なら、イタズラでも何でも笑い合って、ずっと一緒にいけそうじゃないか!?」
○○はケーキの馬車を見つめる。砂糖で作られた自分とベルトウェイの乗るカボチャにはハロウィン特有の顔が彫られている。
「魔法はかけてないけど、願なら込めたんだ」
○○はケーキからベルトウェイへと視線を戻す。
「『○○と過ごす時間がずっと続きますように』って」
○○の眼に映るベルトウェイの優しい笑顔。ベルトウェイの眼にもまた、○○の優しい笑顔が映っていた。
「私も!ベルトウェイさんと過ごす時間がずっと続きますように!」
○○は目の前に居るベルトウェイに思い切り抱き付いた。
通話の切れていない調理台の上の携帯電話から、○○とベルトウェイには聞こえない声が発せられた。
―成程な。ベルトウェイ、お前がそこまでジャック・オー・ランタンの馬車にこだわる訳がやっとわかったぜ。そんな風に想える、大切な女を見つけたんだな。お前みたいなロマンチックな考えは見習いたいとは思わんが、好きな女を大切にするその姿勢は、見習いたい物だな。
やがて、ケーキのカボチャに負けない程の笑顔が○○とベルトウェイに広がり、嬉しそうで楽しそうな笑い声が響いた。
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