ボチャ畑のベルトウェイ 2014

「○○!!!」

 がっしりと○○の腕を掴むベルトウェイ。しかし、それを必死に振り解こうとする○○。

「離してっ!!!ベルトウェイさんなんか大っ嫌い!!!」

 そう言うものの、腕を振り解くことはできず、○○はその場で泣き出してしまった。先程のベルトウェイの言葉を、○○は嫌と言う程に理解していた。聞えなかった部分はあの状況で全て推測できた。きっと、彼はこう言っていたのだろう。

 ―どうだ!?お前に贈ろうとお菓子を作ったんだ!
 
 ―大丈夫。アイツとははこの後すぐ別れるから!

 つまり、最近ベルトウェイの様子がおかしかったのは、他に好きな人ができて、その人のために菓子を作ろうと考えていたから。彼の心はその人に向いていて、○○の声など耳に入らなかったのだ。そして、贈り物をするその好きな人に電話をし、「○○とは別れる」と約束したのだ。

 ○○が泣きながらこのことを話すと、ベルトウェイは更に慌てたような顔をする。

「ちっ、違うよぉ〜っ!!」

 胸の前で両手をブンブン振り、○○の言ったことを否定するベルトウェイ。

 しかし、○○はわぁわぁと泣いたまま。

 通話の切れていない携帯電話の受話器からは、またしても声が発せられた。

 ―はぁ・・・情けない・・・。

 そして次の瞬間、受話器からは人を呼びつけるような大きな声が発せられた。

 ―おい!!ベルトウェイ!!お前の彼女と変われ!!俺が説明する!!

「え・・・?男の人・・・?」

 受話器から聞こえた男の声に、○○は泣きながら、少し驚いたように顔を上げる。電話の相手は女だと思っていたのだ。

 ―ベルトウェイ!!早く変われ!!!

 受話器の声に急かされ、ベルトウェイは携帯電話を○○に差し出す。○○はそれをゆっくりと耳に当てた。

「―はい・・・」

「いいか?よく聴け!お前がさっき推測したベルトウェイの言葉は間違っている」

 受話器の声はベクターと名乗った。

 実際の会話とその時の状況はこうだった。

 ―「なぁ!写メ送ったの、見てくれたか!?」

 ―『あ〜見た見た。』 

 ―「どうだ!?○○に贈るから頑張って作ったんだ!」

 ○○に手作りケーキを贈ろうとしていたベルトウェイ。できあがったばかりのケーキを写真に撮り、色々と相談していた仲間であるベクターに送って、見た目の評価を訊いていたのだ。

 ―『ハロウィン・カボチャの馬車か。で、カボチャの中に居るのはお前と彼女の○○って訳か。器用だな・・・』

 携帯電話を耳に当てながら、できたばかりのケーキを嬉しそうに見つめるベルトウェイ。そこにはジャック・オー・ランタンの馬車に○○とベルトウェイが乗っているケーキがあった。

 ―「アイツに知られないようにするの、大変だったんだぜ〜」

 どうしてもサプライズで○○に贈りたく、自分がケーキを作る練習をしているのを知られたくなかった。

 ―「○○に感付かれたら厄介だからな」

 ○○に感付かれ何をしているのかと問い詰められたら、せっかくのサプライズができなくなってしまう。

 ―『おい、ベルトウェイ。お前、大丈夫なのか?ケーキ作りの練習ばっかりで、彼女のことをほったらかしにしてるんだろ?』

 一か月程まえからケーキ作りの練習をしていたが、思ったようにいかず、ついそれにばかり気が行ってしまい、○○に対し失礼な態度をとり蔑ろにしてしまった。どうしてもハロウィン・カボチャであるジャック・オー・ランタンの馬車のケーキを作りたかったのだ。
 
 ―「大丈夫。アイツにははこの後すぐ渡すから!」

 ベルトウェイは続ける。

 ―「んでもって、今までの態度を全部謝る!」

 これが全てだった。

「こういう訳だ。ベルトウェイはお前のことが好きで好きでたまらないんだよ。他に好きな女なんかできる訳がない」

 受話器から、自分がどれ程ベルトウェイに愛されているかを教えられた○○。自分は盗み聞きしてしまい、そして、勝手に勘違いをして家を飛び出してしまった。

「ごめん・・・なさい・・・っ・・・!」

 携帯電話を握り締めたまま、○○はその場に蹲り再び泣き出してしまう。

「○○、家に帰ろう」

 ベルトウェイは優しく○○の背中を撫でた。


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