Warmhearted Christmas
あの場から走り去った○○は、BSAAのオフィスビルから少しの所にある公園に来ていた。
雪が少しずつ、公園を白一色にしていた。
○○は公園の奥にあるブランコに腰を下ろした。ブランコにも雪が積もりかけていて、座ると尻が濡れるが、そんなことどうでもよかった。
自分はいったい何に舞い上がっていたのか。ピアーズはBSAAの中でもエースで、その上、誰にでも分け隔てなく接する優しさも併せ持っている。そんなピアーズに恋心を抱かない女性は居ないだろう。いくらピアーズの浮ついた噂を聞いたことがなかったとは言え、優しくされているのは自分だけではないのだ。ピアーズの優しさは自分にだけ向けられているものと勘違いしていた。
最初から、ムリなことだったんだ。
○○は綺麗に包装された包みを開き、ダークグリーンのマフラーを見つめた。
ピアーズさんは、首が毛糸でチクチクするのは好きじゃないよ・・・。
一か月前、自分が編み物をすると言った時の、毛糸を見つめるピアーズの表情を思い出した。
これを渡して告白してから「ごめんなさい」じゃなくて、よかったじゃない。
そっとマフラーの模様を指でなぞる。
誰に迷惑をかける訳じゃないし、これでよかったんだよ。
視線を膝の上のマフラーに向けたまま、乾いた笑いを作る。
「・・・・・・ピアーズさん・・・・・っ・・・・・・」
笑いとは裏腹に、熱い涙が頬を伝った。
あの時、言えばよかった。
―ねぇ○○、こんなにたくさんの毛糸、どうするの?
「ピアーズさんに、マフラーを作ろうと思って」って。「綺麗にできたら、貰ってくれますか?」って。
公園の前を通るカップルの「今夜はホワイトクリスマスだね」というベタなセリフが聞えたが、そんなこと、○○にとってはどうでもいいことだった。止めどなく流れる涙が膝に落ちて染みを広げていった。夜の公園で一人、○○は泣いた。公園の街灯だけが、○○を労わるように優しく照らしていた。
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