「・・・ピーちゃん・・・っ・・・」

 花火大会も終わりに差しかかろうとする頃、○○の啜り泣きが聞こえた。

「○○・・・」

 ピアーズは動かしていた手を止め○○を見つめる。

「・・・ピーちゃん、明日には帰っちゃうんだよね・・・?」

 啜り泣きと一緒に聞こえた○○の言葉は、ピアーズの考えていた事柄とは全く違う物だった。

 驚いた顔で、ピアーズはただただ○○を見つめた。

「ごめんなさいっ・・・っ・・・明日、ピーちゃんが帰っちゃうかと思ったら何だか・・・ベランダの話も、過去の話で・・・また暫くピーちゃんが居ないんだって思うと・・・っ、寂しくなっちゃって・・・」

 いつもは、次の日の祭りにも出かけ、その次の日もまだまだ時間のある二人。しかし今回はどうしても都合がつかず、いつもよりも三日間短い夏休みで、ピアーズは明日にはここを出発しなくてはなならかった。つまり、この花火大会が二人にとって最後の夏休みだったのだ。

 いつもはもっと一緒に居られるのに、今回はそれが少なくて、○○は寂しくなってしまったのだ。

「・・・○○・・・」

 自分は連休明けのことで寂しそうにしているのだと思っていたのに、まさか、自分との時間が少ないことで寂しそうにしていたとは。

 嬉しいような、切ないような感情が込み上げる。言葉にして伝えられた時の、あの何とも言えない心の痛み。

 その痛みを、聞かされる方の辛さを、○○もしっかりわかっているのだろう。泣きながら発せられる言葉は謝罪の言葉に変わった。

「ごめんなさい、ピーちゃ・・・こんなこと言うつもりじゃ・・・っ、なかったのに・・・」

 ○○の涙がピアーズの胸を締め付ける。

 立て続けに花火が打ち上がり、終了を迎えようとしている。

 ピアーズは、手を握ったまま自分の眼元を擦る○○をそっと引き寄せた。

「ごめんな。いつもみたいにもっと騒がないと、物足りないよな」

 自分の腕の中で、左右に頭を動かす○○。

「・・・窓の鍵、開けておくから。夜、俺の部屋に来いよ」

「え?」

 涙を流しながら、○○はピアーズを見つめた。

「朝までトランプしようぜ」

 ピアーズは抱き締めるのを緩めると○○を見つめる。

「さっきの話で思い出したことがあるんだ。○○が夜中に俺の部屋に来た時、朝まで一緒にトランプやったよな。トランプに飽きたら絵描いたり、しゃべったりして・・・疲れて寝ちゃうことも結構あったけど」

 大きな花火が打ちあがる。そして、それがきらきらと輝きながら散っていく。

「今の俺の部屋に大した物はないけど、あのトランプなら持って来てる」

 いつも夜中に遊んだ手垢の付いたトランプは、一人暮らしをしてる家にも持って行っていて、故郷に帰ってくる時にはいつも持って帰って来る物だった。

「俺も、最近ベランダから来られてないしな・・・」

 そう言って、ピアーズは優しく笑った。

「・・・うん!・・・行く!」

 笑顔を向ける○○の頬に伝う涙を親指で拭うと、ピアーズは再び抱き締める。そして、○○の首元に自分の顔を埋めた。

あんたの流した涙はたった今散った花火みたいにきらきら輝いて、それが余計に俺の胸を締め付けた


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