「毎回思うんだけどさ、ピーちゃんのお家のベランダからって花火よく見えるよね〜」
“花火大会と祭りに、毎年○○と一緒にでかけていた”・・・実際は祭りには行くが、花火は見に行っていない。花火はこのベランダから毎年一緒に見ているからだ。昔から、ピアーズの家のベランダから見える花火はどこよりもよく見えて、特等席だったのだ。
「そうだな。いつからかここから見てるけど、二十年以上経ってもでかいマンションとか立たないな。ほんと、よく見える・・・」
ピアーズは言いながら、花火から○○の家のベランダに目を向ける。幾らも離れていない距離にあるベランダ。すぐ隣にある殆ど変らない立地。
「それなら、○○の家だって一緒だよな。・・・そう言えば、俺たちっていつぐらいから一緒に花火見てるんだっけ?」
「え?ええと・・・小学校に入る前?・・・幼稚園だっけ?」
ピアーズの急な疑問に、○○も一緒に考え込む。
「随分小さい頃から一緒に見てたよね。あの頃はママとパパと、ピーちゃんのママとパパも一緒だったよね」
「あぁ!そうだそうだ!何でか知らないけど、昔からここのベランダでみんなして一緒に見てたんだよな!お互いの家のベランダから見たって何ら変わらないのにな!」
二十年以上経っても変わらない自分たちの家の周りの様子に、自分たちの二十年がふと蘇る。
「○○さ、よくベランダから俺の部屋に来てたよな。○○がおばさんとケンカした時とか、クラスの女子と何かあった時ははほぼ毎回!」
隣り合う家のベランダは、いくらも離れていない。そのため、昔からよくベランダを伝って互いの部屋を行き来していたことを思い出す。
「よく行ったよね〜!ベランダからピーちゃんの部屋!」
「確か夜中に『怖い夢見た〜』って、泣きながら来たこともあったよな」
ピアーズは○○を見ながらくつくつと笑う。
当時は、夜中に○○が泣きながら来るものだから、どうやって宥めようかと必死だったが、今は、夜中に泣きながらベランダを伝ってやって来る○○を想像して笑ってしまう。
「ピーちゃん、私が来ることを知ってて、冬でも窓の鍵開けといてくれたんだよね」
○○もピアーズにつられて笑った。
「でも・・・」
楽しげな声は急に寂しさを含んだ物に変わる。
「“でも”?」
ピアーズは○○を見つめた。先程の、時計を見つめていた彼女の寂しそうな横顔が頭を過る。
「・・・最近、してないよ・・・」
ピアーズが一人暮らしを始めてからは、彼の部屋に行くことは叶わなくなってしまった。
「・・・ごめんな。たまにしか帰って来られなくて」
ピアーズは○○を見つめたまま申し訳なさそうな顔を作る。
「ううんっ!ごめんなさいっ!!私、何言ってんだろっ!!」
○○は頭を左右に勢いよく振ると、ピアーズに笑顔を向ける。
「あ・・・!そう言えば、ママとパパ、ピーちゃんのママとパパと出かけるって言ってたけど・・・」
「あぁ、うちの親もそんなこと言ってたな」
「私とピーちゃんがここで花火見てるから、遠慮してるのかな?」
「どうなんだろうな」
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