「ピーちゃ〜ん!」

「あ〜い!」

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえ自分の名が呼ばれる。「どうぞ」と返事をすれば、その返事さえも待ち遠しかったかのように、ノックした人物は嬉しそうに部屋に入って来た。

「○○」

 隣に住む幼馴染であり恋人の○○である。

「時間ぴったりだな。そろそろ始まるな」

「そうだね」

 二人して壁に付けられた時計に目を向ける。時刻は夜の七時半を迎えようとしていた。

 夏休みを一週間取り、故郷に帰って来ていたピアーズ。その夏休みの間に行われる花火大会と祭りに、毎年○○と一緒に出かけていた。

「行くか!」

 ピアーズはそう言って笑うと、自分の後ろにあるベランダを親指で示す。

「うんっ!」

 ○○も楽しそうに笑う。しかし、その笑顔も束の間。ピアーズがベランダに出たのが見えると、○○はもう一度壁の時計を見つめた。

「○○?」

 自分の後ろに居たはずの人物が居ないことがわかり、ピアーズは出入り口の窓まで戻り顔を覗かせる。

「あっ!ごめんごめん!今行くね」

 急いで笑顔を作りなおした○○。しかしピアーズは、○○の表情が寂しげだったのを決して見逃さなかった。

「なぁ、○○」

 ベランダのサンダルに足を入れようとする彼女の名を呼んだ。

「ん?」

「無理、すんなよ」

 二人がベランダに出たのと花火大会の第一発は同時だった。


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