JAWS
その夜、ホテルの部屋にて―
自分たちが寝てからどのくらい経ったのか、○○は変な気配を感じて目を覚ました。明日は朝から海で遊ぼうと約束し、11時過ぎには寝たはずだった。いったい今は何時だろうか。○○は時計を確認しようと、灯りを点けるために脇のランプへと手を伸ばした。しかし・・・
か、身体が・・・動かないっ・・・!?
そう、○○が感じた“変な気配”とはこのことだったのだ。自分の身体の上に何かが乗っているかのように少しも動かない。そして、すぐに感じたもう一つの気配。布団の足元が膨らみ、何かが蠢く気配。
どうしようっ・・・!!!このホテルって幽霊出るの!?・・・やだぁっ!!ピアーズ!!助けてっ・・・!!!
隣で眠るピアーズを起こそうにも身体は動かない。○○はただ、足元で盛り上がる布団を、眼だけを動かして見ることしかできなかった。
すると突然、どこからともなく音が聞こえてきた。
―デンデンデンデンデンデンデンデン・・・。
な、何・・・!?この音・・・。
そして、その音と共に足元のそれは○○の上半身へとゆっくりと上がって来る。
止めてっ!!!来ないでっ!!!
○○は恐怖から逃れようと咄嗟に眼をぎゅっと瞑った。そして、その恐怖をなくすために聞こえてくる音に全神経を集中させる。
―デンデンデンデンデンデンデンデン・・・デ〜レン、デ〜レン・・・。
・・・・・・あれっ・・・?この音・・・・・・んん!?!?
○○はこの音のリズムに覚えがあった。やたらと危機迫るような感じに。焦らされ、緊張するような感じに。そして、この音の音色その物に。
―デンデンデンデンデンデンデンデン・・・デ〜レン、デ〜レン・・・。
テンポの速いリズムに独特の音程・・・これはもうアレしかない。そして、この音は楽器の音でもテレビから聞こえてくる音でも何でもない。
金縛りだと思っていた物も金縛りでも何でもない。元々、金縛りになんてなっていなかったからだ。
恐怖は少しもない。恐怖と感じていた物の正体は、たった今わかったから。
○○は上半身を起こすと、未だ音と共にもぞもぞと掛け布団の下で蠢く物の方に視線を向けた。そして、勢いよく掛け布団を捲ると、きっと睨み付ける。
「ちょっと!!ピアーズ!!!『JAWS』のテーマ歌いながら何やってんのよ!!!!」
そう、先程から聞こえた音とは、映画「JAWS」のメインテーマの音楽だったのだ。そして、その音を発していたのはピアーズで、○○の足元から上へと蠢いていたのもピアーズだったのだ。
「何してたの?」
冷たく言い放つ○○。
「あ、いや・・・その・・・夜這いを・・・」
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