横無尽に突っ走れ!

「ジェイク〜」

 恋人であるジェイクの家へと遊びに来た○○。肩の少し下で切りそろえた髪が、春の風にさらさらと揺れている。

 インターホンを鳴らせば、いつものように「あ〜い。入って来〜い」という彼の声が聞こえる。

 もう何度も遊びに来ているジェイクの家。普段は閉めてあるリビングのドアも、○○が来る時はちゃんと開いている。

 ○○は見慣れた廊下をペタペタと歩き、彼が居るであろう、灯りの点いたリビングのドアからひょっこりと顔を覗かせた。

 ソファーがあるにも拘らず、絨毯の上に胡坐をかいている彼。ローテーブルに片肘を掛けてテレビを見ていたが、○○の声に笑顔で振り向いた。

「おう、○○・・・って・・・!」

 ○○を見て、呆然とするジェイク。開いた口をそのままで、○○の肩あたりを見つめている。

「おっ、おめぇ・・・!」

 ジェイクは気付いた。○○の髪がないことに。

 いや、○○の髪がないことはない。長さが短くなっただけのこと。しかし、今まであった髪の長さが随分と短くなったため、“髪がない”とまではいかなくとも、その表現もあながち間違ってはいない。

 背中の中程より少し下まであった○○の髪が、肩の少し下までバッサリと切られている。

「おめぇ・・・何だよ、男でもできたか?」

 そんなことないとわかっていながらも、皮肉交じりに○○を見つめるジェイク。彼女の口から「違うよ〜もう!」というような言葉が返ってくるのを見越して、ローテブルに乗せた片手で頬杖を作り、テレビに視線を戻した。

 しかし、ジェイクの予想した返事は帰って来ず、変わりに小さなため息が聞こえた。

「・・・違うよ・・・」

 少し寂しそうなその声に、ジェイクははっとして振り返る。すると、苦笑した○○が居た。

「新生活だから」

 ○○は静かにそう言うと、窓から空を見上げた。


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