体に付いた無数のい斑点

 洗面所の鏡に映る自分の胸元。この無数の赤い斑点は本当に自分の物で、鏡に映る自分は、本当の自分なのだろうか。

 自分の胸元をこすってもその痕は消えず、鏡の中の胸元に触れてもその痕はなくならない。

 何度試してみても、痕を消そうとする指先はただひたすらにゾクゾクする感覚を生み出すだけだった。

 身体にシーツを纏っていてもわかる、足の先まで付いている赤い斑点。それを呆然と見つめていた○○はゆっくりと鏡に視線を戻す。

 不意に、何かが鏡に映った。

 鏡の中に写る、自分の後方に映る物。

 それは不気味な程静かに、鏡に映る○○の眼を見つめていた。

「ハ、ハンクっ・・・!?」

 怯えたように○○は振り向き、後ずさる。しかし、すぐにぶつかった洗面台の縁で身動きがとれなくなる。

 ○○の中で再び、昨日の晩の彼の言葉が頭の中で木霊する。

―『お前がいけないんだからな』

 ○○の眼は、まるで自由を奪われてしまったかのように、無言で近づいて来るハンクの冷たい眼を見ることしかできなかった。


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