ブル・フンコロガシの予感

「・・・ぷっ・・・くくっ」

 コーヒーを飲みながら、自分の部屋の窓から下を眺め笑いをこらえる男が一人。ピアーズ・ニヴァンスは、自分のマンションの前の広場で、積った雪と格闘する人間を見ていた。

「まるでフンコロガシみたいだ」

 マグカップの縁に口を付けたまま、ピアーズはニヤニヤと笑う。その度に小刻みに震える体がコーヒーを揺らしていた。

 “まるでフンコロガシ”と形容された人間、それは実はBSAAアルファチームのピアーズの後輩でありながら、ガールフレンドであったりする。そのガールフレンドの○○から「雪遊び」がしたいと電話があったのだ。一昨日から長いこと降っていた雪は、雪遊びだけでは絶対に使い切らない量が積っていた。“この歳にもなって雪遊びかよ”と思ったピアーズであったが、体を動かすのは嫌いではない。雪の中へダイビングヘッドをするのや、○○にドロップキックでもくらわせるのもいいかななどと考え始めていた。

 急にピアーズのズボンのポケットに入っていた携帯が鳴りだした。

『ピアーズ先輩、用意まだできないんですか〜?』

 ○○からだった。○○がピアーズに雪遊びがしたいと電話し、広場に来てから何十分経っただろうか。いつまで経っても用意をして出で来ないピアーズに痺れを切らしたようである。

「ああ、すまん。なぁ、○○、朝飯食ってからでもいいか?」

 窓から○○を見ながらピアーズが悪戯げに笑う。本当はずっと前に朝食など食べ終わったのだが。自分を待ちながら雪を転がす“○○フンコロガシ”が面白くて、もう少し見ていたいと思ったのだ。

『ええ〜!まだかかるんですか!?』

 自分の姿が見られているなど、ピアーズの時間稼ぎなど、よりによってフンコロガシなどと言われているなど、これっぽっちも知らない○○は唇をとがらした。


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