ピーちゃん
「ねぇ、ピーちゃんは好きな人は居ないの?」
唐突な○○の質問だった。
「・・・居ないな」
考えるまでもなく、想いを寄せる人など居なかった。自分もこの歳だ、過去にはデートらしきことや“付き合う”らしきこともなくはなかった。しかし、そこから本格的な“お付き合い”に発展することはなかった。どういう訳か人気のBSAA。そのBSAAの男を彼氏にしたいと、ステータス欲しさで寄って来る女は少なくなかった。デートらしきことをした時に『BSAAの話が聞きたい』と言われたから素直に話をした。しかし、その途端に相手は不機嫌になったのだった。あっちが聞きたいと言ったことなのに“そんな話よりも私のことについて話して”と言ったところか。それから・・・。よくは覚えていない。大抵こんな感じだったか。まあ、たまたま知り合った女がそういうタイプで、違うタイプに出会ってないだけか。○○の言うような好きな人など居ない。
「本当に居ないの!?」
「ああ。居ないな」
ピアーズはコロッケを持った手を止めて○○の目を見た。その刹那、ピアーズは、ふと思い出した。○○のようなタイプの女は居なかったなと。自分がBSAAに入った時、心から喜んでくれた。ここを離れるとなった時、目の前でわんわん泣かれた。一緒に冗談を言い、ほっぺたをつまみ合う。一緒に歩きながらコロッケを食べる。ここに帰ってくる度に、誰よりも先に迎えてくれる。いつも笑ってて・・・。取留めのない話も・・・。いつになっても“ピーちゃん”て呼ぶ・・・。
「ん?」
ピアーズは気付いた。自分の中で、○○の存在が大きかったことを。過去に「○○のようなタイプは居なかった」と思うということは、「○○のようなタイプがよかった」のではないか。自分が知り合った女を知らず知らずのうちに○○と比べていなかったか。いや、比べるまでもなく、○○を求めていたのか。
先程の釈然としない思いもこれだったのだ。要は、自分は嫉妬していたのだ。○○の想いを独り占めできるその男に。
「好きなヤツ、やっぱり居たわ・・・」
ピアーズは、口元にコロッケを運ぼうとした手を止めた。そして、ゆっくりと顔を○○の方へ向けた。
「俺の好きなヤツは・・・○○だ。・・・今まで、○○がすぐ傍に居て、ずっと一緒が当たり前で気付かなかった。でも、考えれば考える程、俺の好きなヤツは○○だ。今になって、やっと気付いた」
○○が驚いた顔をしている。そんな彼女の目がまっすぐにピアーズを見つめていて、やがて、その目からキラリと光るものが流れた。
「へへ・・・嬉しいな・・・私ね、ずっと好きだった人って、実はピーちゃんなの。いつだって真剣に話を聞いてくれる・・・いつだってよく食べる・・・私を呼ぶ声もちっとも変わらない。・・・ピーちゃん大好き!!」
ピアーズは自分の心が穏やかになるのを感じた。
ピアーズは歩きながら、自分と○○の、お互いの額をくっつける。ほんの少しの間、静止して。
「コロッケ、何個食った?」
「3個!」
「俺は5個」
額をくっつけたまま、ピアーズは笑う。
「飯、食いに行くか!?これだけコロッケ食った直後の飯は、○○とじゃないとできない」
「私のほっぺ、ピーちゃんみたいに筋入ったら嫌だよ?」
○○はピアーズの頬を引っ張る。
「これは俺みたいに、肉を食う相当な訓練しないとできないの!そんなスノーマンみたいなほっぺた!まだまだだぜ?」
ピアーズは○○の頬をむにゅっとつまんだ。
そして、いつになっても変わらない二人の笑い声が響いた。
[ back to top ]