ピーちゃん
その日の夕方、ピアーズと○○は街を散歩していた。昔から変わらずにある肉屋「Mike屋」でコロッケを買い、それを食べながら取留めのない話をして、当てもなくぶらぶらと歩く。いつも忙しいピアーズにとって、この時間は楽しく、嬉しい時間だった。
「ねぇ、ピーちゃん―ん?」
どこからか、携帯のバイブレーションの音が聞こえた。○○が言いかけて、首を傾げながらジーパンのポケットに手を入れた。
「あ・・・」
携帯を見た○○の表情が曇るのをピアーズは見逃さなかった。
「電話、出ないのか?」
「いいの。・・・しつこい男からだから」
○○は、「切」ボタンを押すと、携帯をポケットに戻しピアーズの方に顔を向けた。
「この、あ、今の電話の人ね、会社の関連で知り合った人なの。凄く感じがよくて、いい人で・・・何回か食事に行ったの。あ!一対一でじゃないよ。で―」
「告白された・・・のか?」
「・・・うん」
ピアーズの言葉に○○は静かに頷いた。
「でもね・・・断ったの」
「何で?」
「凄く優しい人だと思ったの。いい人だなって。でもね、このこと、ママにしか言ってないんだけど・・・私、ずっと好きな人が居るの。今まで、デートとか・・・いわゆる“付き合う”ってことも多少はしたけれど・・・どれもこれも続かない原因はただ一つ。私の中にずっと居る“好きな人”なの。だから、こんな気持ちのままそういう関係になるのも、相手に対して失礼だし・・・私自身も嫌だったから・・・でもね、断って正解だったよ!断った瞬間から罵詈雑言の嵐だったから。電話もしつこくて。『お前みたいなヤツに誰が本気になるか』って。『遊ばれるだけマシに思え』って。こっちはそんな安くないっつうのに」
「そうか・・・大丈夫か?」
「うん!」
元気に振る舞う○○の横顔が、ピアーズには悲しそうに見えてならなかった。
「ほら!コロッケ!食えよ!たくさん買ったんだから!」
ピアーズは、コロッケの入った紙袋を○○に差し出した。
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