ィン・マコーレーの初恋

 病院特有の消毒薬の匂いが広がっている。次から次へと続く廊下を進み、緊急診察室の前の長椅子に腰を下ろした。時おり、慌ただしい足音や声が聞こえる。フィンは無意識のうちに窓の外を見つめた。

「あの女の人、大丈夫かなぁ・・・」




―ええと・・・。

 白衣を着た医師が、キョロキョロしながら誰かを探しているのが視界の端に見えた。

 あっ・・・!

「先生」

 フィンは静かに立ち上がると、その医師に駆け寄る。

「・・・先生、あの女性は・・・」

 フィンの眉毛は、不安げに下がっていた。あの時、自分が受け止めたものの、頭などを打っていたら・・・。

「大丈夫ですよ。ショックで気を失っていますが、もうじき気が付くでしょう。一応、2、3日は入院ですけれどね。」

 医師はそう言いながら、ガラガラと病室に運ばれて行く、彼女を寝かせたベッドを目で追った。

「あなたのおかげです。マコーレーさん。あなたが、彼女を救ったのでしょう?」

 にっこりとほほ笑むと、医師はフィンの肘を指差す。

 腕捲りをしていたフィン。その肘らへんには擦り傷ができ、うっすらと血が滲んでいた。

「・・・あっ」

 擦り傷を作っていたなんて、全く気が付かなかった。

「消毒、しておきましょうか」




 消毒を終えた後、フィンは医師と一緒に彼女の病室を訪れた。

 静かに閉じられたままの彼女の瞳。

「彼女の目が覚めるまで、ここに居ますか?」

 医師はフィンを見つめた。

 受け止めた時の華奢な彼女の体。“ここに居たい”フィンはなぜかそう思った。しかし、彼女が目を覚ました時に見ず知らずの人間が居たらびっくりするだろう。それに、何て声を掛ければいいのか。

「・・・いいえ。帰ります。見ず知らずの自分がここに居たら、彼女は休まりませんから」

 フィンはそう言うと、医師に体を向けた。

「先生、ありがとうございました」

 頭を下げると、フィンは静かに病室を後にした。


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